コールセンターを運営するBtoC企業にとって、顧客対応の効率化は常に重要な課題です。
電話対応が終わった後、オペレーターは通話内容の記録や顧客情報の更新といった作業を行います。
この後処理にかかる時間を「ACW(After Call Work)」と呼び、コールセンターの生産性を左右する重要な指標として注目されています。
ACWが長くなると、オペレーター1人あたりの対応件数が減少し、人件費の増加や顧客の待ち時間延長につながります。
一方で、ACWを適切に短縮できれば、運営コストの削減と顧客満足度の向上を同時に実現できるでしょう。
本記事では、ACWの基本的な定義から計算方法、業界平均値、そして具体的な短縮方法まで詳しく解説します。
目次
ACWの定義と計算方法

ここではACWの基本的な意味と算出方法について解説します。
ACWとは何か
ACWは「After Call Work」の略称で、日本語では「平均後処理時間」と訳されます。
具体的には、顧客との通話が終了した後にオペレーターが行う作業時間を指します。後処理の内容としては、通話内容の記録や顧客情報の更新、他部署への連携依頼などが挙げられます。
この指標はコールセンターのKPIとして広く活用されています。なぜなら、後処理時間が長いほど次の電話を受けるまでの待機時間が増え、全体の対応効率が低下するからです。そのため、多くの企業がACWの短縮に取り組んでいます。
ACWの計算式と具体例
ACWの計算式は非常にシンプルです。後処理時間の合計を対応件数で割ることで算出できます。
| 項目 | 計算式 |
| ACW | 総後処理時間 ÷ 総対応件数 |
たとえば、1日の総後処理時間が300,000秒で対応件数が1,000件の場合、ACWは300秒(5分)となります。この数値を日次・週次・月次で追跡することで、業務効率の変化を把握できます。
ATT・AHTとの関係性
ACWを理解するうえで、関連指標であるATTとAHTも押さえておく必要があります。
ATT(Average Talk Time)は平均通話時間を意味し、顧客との会話にかかる時間を示します。一方、AHT(Average Handling Time)は平均処理時間と呼ばれ、ATTとACWを合算した値です。
| 指標 | 意味 | 計算式 |
| ATT | 平均通話時間 | 総通話時間 ÷ 総対応件数 |
| ACW | 平均後処理時間 | 総後処理時間 ÷ 総対応件数 |
| AHT | 平均処理時間 | ATT + ACW |
AHTを短縮するには、ATTかACWのどちらかを改善する必要があります。
ただし、ATTは顧客の話し方や問い合わせ内容に左右されるため、コントロールが難しい傾向にあります。そのため、社内で改善しやすいACWに注目する企業が多いのです。
ACWが重要視される理由

ここではACW短縮がもたらす3つのメリットについて解説します。
生産性向上への影響
ACWを短縮すると、オペレーター1人あたりの対応件数が増加します。
たとえば、ACWが6分から5分に短縮された場合を考えてみましょう。1時間あたりの対応可能件数は10件から12件に増える計算になります。
この差は1日単位で見ると大きな違いを生みます。8時間勤務であれば、1人のオペレーターが1日に16件多く対応できるようになります。
結果として、同じ人員でより多くの顧客に対応できるため、生産性が大幅に向上します。
コスト削減効果
生産性が向上すれば、必要なオペレーター数を削減できる可能性があります。人件費はコールセンター運営における最大のコスト要因です。
そのため、ACW短縮による人員最適化は直接的なコスト削減につながります。
また、対応効率が上がることで残業時間の削減も期待できます。繁忙期でも限られた人員で対応できるようになれば、採用コストや教育コストの抑制にも寄与するでしょう。
顧客満足度との関連
ACWが長いと、次の電話を受けるまでの時間が延びます。その結果、電話がつながりにくくなり、顧客の待ち時間が増加します。待ち時間が長くなると、顧客はストレスを感じ、途中で電話を切ってしまう「放棄呼」が発生しやすくなります。
逆に、ACWを短縮すれば応答率が向上し、顧客はスムーズに問い合わせができるようになります。BtoC企業にとって、顧客接点の品質向上は売上やリピート率に直結する重要な要素です。
ACWの業界平均と目標設定

ここでは業界データをもとにした適切な目標値の考え方について解説します。
コールセンター白書のデータ
株式会社リックテレコムが発行する「コールセンター白書2023」によると、97社を対象とした調査でACWの平均値は6.3分だったそうです。
この数値はあくまで平均であり、業種や問い合わせ内容によって大きく異なります。たとえば、金融や保険など複雑な手続きが必要な業種では、ACWが長くなる傾向があります。
適切な目標値の考え方
ACWの目標設定では、業界平均だけでなく自社の状況を考慮することが重要です。
無理に短縮しようとすると、記録の質が低下したり、オペレーターに過度なプレッシャーがかかったりする恐れがあります。
まずは現状のACWを正確に把握し、改善余地がどこにあるかを分析しましょう。
そのうえで、段階的な目標を設定することをおすすめします。
たとえば、現状が8分であれば、まず7分を目指し、達成後に6分を目標にするといった進め方が効果的です。
ACWが長くなる主な原因

ここではACWが長期化する3つの要因について解説します。
オペレーターのスキル差
後処理時間はオペレーターのスキルによって大きく異なります。特に影響が大きいのは、タイピング速度と文章作成能力です。入力が遅いオペレーターは、同じ内容を記録するのに倍以上の時間がかかることもあります。
また、経験の浅いオペレーターは何を記録すべきか判断に迷い、時間を浪費しがちです。ベテランと新人の間でACWに大きな差が生じている場合、スキル面の課題が原因である可能性が高いでしょう。
マニュアル・フローの未整備
後処理の手順が標準化されていないと、オペレーターごとに作業方法がばらつきます。ある人は詳細に記録し、別の人は簡潔に済ませるといった状況が生まれます。この不統一は、ACWのばらつきだけでなく、記録品質の低下にもつながります。
さらに、マニュアルがなければ新人教育にも支障をきたします。先輩によって教える内容が異なり、非効率な作業方法が引き継がれてしまうリスクがあります。
入力項目の複雑さ
後処理で入力すべき項目が多すぎると、当然ながらACWは長くなります。特に、自由記述欄が多い場合は注意が必要です。オペレーターは何をどこまで書くべきか悩み、必要以上に時間をかけてしまいます。
また、複数のシステムにまたがって入力が必要な場合も、作業時間が増加します。画面の切り替えやログインの手間が積み重なり、本来不要な時間が発生しているケースは少なくありません。
ACWを短縮する具体的な方法

ここでは実践的な3つの改善アプローチについて解説します。
業務フローの見直し
まず取り組むべきは、入力項目と作業フローの見直しです。本当に必要な情報だけを記録するよう、入力項目を精査しましょう。不要な項目を削除するだけでも、ACWは確実に短縮できます。
また、自由記述をプルダウンやチェックボックスに置き換えることも効果的です。選択式にすることで入力時間が短縮され、記録内容の統一も図れます。さらに、通話中に入力できる項目は通話中に済ませるフローに変更すれば、後処理時間を大幅に削減できます。
| 改善策 | 効果 |
| 入力項目の削減 | 作業量の直接的な削減 |
| 選択式への変更 | 入力時間短縮と品質統一 |
| 通話中入力の推進 | 後処理時間の分散 |
| テンプレート活用 | 定型文入力の効率化 |
オペレーター教育の強化
スキル差を埋めるためには、継続的な教育が欠かせません。タイピング練習やショートカットキーの活用法など、基本的なPCスキルの向上から始めましょう。単語登録機能を活用すれば、よく使うフレーズを素早く入力できるようになります。
加えて、要約力を高める研修も有効です。通話内容を簡潔にまとめる力が身につけば、記録時間の短縮と品質向上を両立できます。定期的にベテランオペレーターのノウハウを共有する場を設けることも、チーム全体のスキル底上げにつながります。
システム導入による自動化
より大きな効果を求めるなら、システム導入を検討しましょう。音声認識技術を活用すれば、通話内容を自動でテキスト化できます。オペレーターは生成されたテキストを確認・修正するだけで済むため、入力作業が大幅に軽減されます。
さらに、AIによる自動要約機能を導入すれば、通話内容のポイントを自動で抽出できます。CRMとの連携により、顧客情報の更新も自動化できるでしょう。初期投資は必要ですが、長期的には人件費削減と品質向上の両面でメリットが得られます。
▼ 関連記事:AIコールセンターとは?導入メリットと活用法を解説
ACWで成功した事例
ここでは実際にACW短縮を実現した3社の取り組みについて解説します。
エンターテインメント業界の事例:合同会社DMM.com
DMM.comグループは16の領域で60以上の事業を展開しています。会員数は4,100万人を超え、コールセンターには月間約7,500件の問い合わせが寄せられていました。そのため、後処理業務の効率化が重要な課題となっていました。
同社はAzure Speech to Textによる通話音声の自動テキスト化を導入しました。さらに、Azure OpenAI Serviceを活用した通話内容の自動要約機能も実装しています。これにより、オペレーターの入力作業を大幅に軽減しました。
導入の結果、ACWは平均45秒(約27%)削減されました。月間では93時間の削減効果を達成しています。加えて、VOC活用の精度向上にもつながりました。
保険業界の事例:アニコム損害保険株式会社
アニコム損害保険はペット保険の領域で15年連続シェアNo.1を誇ります。市場成長に伴い契約件数が増加し、コンタクトセンターの電話対応負荷が課題となっていました。限られた人員で品質を維持しながら対応件数を増やす必要がありました。
同社はPKSHA Speech Insightを導入しました。通話内容の自動書き起こしと要約機能により、後処理の効率化を図っています。実証実験では業務に適した要約精度も確認できました。
その結果、当初目指していた37%以上の工数削減を実現しました。オペレーターの負担軽減と対応品質の向上を両立しています。
出典:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000160.000022705.html
小売業界の事例:株式会社大丸松坂屋百貨店
大丸松坂屋百貨店は2023年にコールセンターの変革に着手しました。ZendeskとAmazon Connectを組み合わせた新システムを構築しています。ECサイトを含む顧客対応の効率化が目的でした。
同社はAmazon Bedrockの生成AIを活用しました。通話内容を自動要約し、Zendeskに記録する機能を導入しています。オペレーターの入力作業を削減する仕組みを整えました。
導入後、11月のACWは1件あたり平均7秒短縮されました。さらに12月には13秒の短縮を達成しています。継続的な改善効果が確認されました。
出典:https://eclect.co.jp/case/3920/
よくある質問(FAQ)
Q1. ACWの適正値はどのくらいですか?
業界平均は約6分ですが、適正値は業種や問い合わせ内容によって異なります。
金融や保険など複雑な手続きが必要な業種では長くなる傾向があり、単純な問い合わせが中心であれば3〜5分程度が目安となります。
まずは自社の現状を把握し、段階的に改善目標を設定することをおすすめします。
Q2. ACWとATTのどちらを優先して改善すべきですか?
一般的にはACWの改善を優先することをおすすめします。
ATTは顧客の話し方や問い合わせ内容に左右されるため、コントロールが難しい傾向にあります。
一方、ACWは社内の業務フローやシステム改善で短縮しやすく、効果も測定しやすいという特徴があります。
Q3. ACW短縮で品質が低下しませんか?
無理な短縮は品質低下を招くリスクがあります。
ただし、入力項目の見直しやシステム導入による効率化であれば、品質を維持しながら短縮できます。
重要なのは、記録すべき情報を明確にし、不要な作業を削減することです。
オペレーターに過度なプレッシャーをかけず、仕組みで改善する姿勢が大切です。
Q4. 小規模なコールセンターでもACW改善は必要ですか?
規模に関わらず、ACW改善は効果があります。むしろ小規模なセンターでは、1人あたりの対応件数増加が全体の生産性に与える影響が大きくなります。まずはコストをかけずにできる業務フローの見直しやマニュアル整備から始めてみてください。
Q5. ACW改善の効果はどのくらいで現れますか?
改善策によって異なりますが、業務フローの見直しであれば1〜2週間程度で効果が見え始めます。オペレーター教育は1〜3か月程度の継続が必要です。
システム導入の場合は、導入後2か月程度で数値に変化が現れるケースが多いでしょう。
▼ 関連記事:問い合わせ対応を効率化する方法と改善のコツ
まとめ
ACWはコールセンターの効率を測る重要な指標です。短縮することで生産性向上、コスト削減、顧客満足度向上という3つのメリットが得られます。業界平均は約6分ですが、自社の状況に合わせた目標設定が重要です。
ACWが長くなる原因としては、オペレーターのスキル差、マニュアルの未整備、入力項目の複雑さが挙げられます。改善に取り組む際は、まず業務フローの見直しから始め、並行してオペレーター教育を強化しましょう。より大きな効果を求める場合は、音声認識やAI要約などのシステム導入も検討してください。
BtoC企業にとって、コールセンターは顧客との重要な接点です。ACWの改善を通じて、効率的かつ質の高い顧客対応を実現していきましょう。
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