CDP活用で実現する顧客データ基盤の構築とファーストパーティデータを活用した成果最大化実践手法
この記事で分かること
- CDP(顧客データ基盤)を活用した大規模顧客セグメンテーションの実践方法
- メッセージングプラットフォームを軸とした顧客コミュニケーション戦略の構築手法
- データクリーンルームとプレディクティブスコアリングによる配信効率の向上事例
- B2B2Cビジネスモデルにおける顧客データ活用の課題と解決策
- 部門間連携とベンダー伴走支援による成功のポイント
デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進において、顧客データの統合と活用は企業にとって最重要課題の一つとなっています。特に、複数のブランドや製品ラインを展開する企業では、顧客データが各部門やシステムに分散し、統一的な顧客理解が困難な状況に直面しています。
本記事では、大手企業がCDP(Customer Data Platform:顧客データ基盤)を導入し、メッセージングプラットフォームを軸とした顧客コミュニケーション戦略を構築した実践事例をご紹介します。
セグメンテーション配信による開封率の大幅向上、機械学習を活用した購買予測モデルの構築、そして部門間連携による成功のポイントまで、具体的な成果とともに解説いたします。
顧客データ基盤構築の背景と課題

ライフステージに沿った顧客基盤の必要性
多様な製品ラインを展開する企業において、顧客は人生の各ステージで異なる製品やサービスを利用します。ある飲料メーカーの事例では、乳幼児期の粉ミルク用天然水から始まり、成長期のジュース、成人後のビールやウイスキー、そして高齢期の健康サプリメントまで、顧客の一生に寄り添う製品群を提供しています。
しかし、従来の顧客管理では、各ブランドや製品カテゴリーごとに顧客データが分断され、「一人の顧客」として統合的に把握することが困難でした。この課題を解決するため、ライフステージを横断的に捉える顧客データ基盤の構築が求められていました。
B2B2Cモデルにおけるデータ取得の制約
メーカー各社では流通業者を介して顧客に製品を提供するB2B2Cビジネスモデルでは、顧客の購買データを直接取得することが困難です。小売店やECプラットフォームを通じた販売では、最終顧客の詳細な購買履歴や行動データにアクセスできないため、従来は大規模なマスマーケティングに頼らざるを得ませんでした。
この制約を克服するため、多くの企業がメッセージングプラットフォームやSNSを活用した直接的な顧客接点の構築に注力しています。
顧客との継続的なコミュニケーションを通じて、購買意向や製品への関心度を把握し、より効果的なマーケティング施策を展開することが可能になります。
メッセージングプラットフォームを軸とした顧客接点戦略

大規模顧客基盤の構築
ある大手企業では、メッセージングプラットフォームを活用した顧客接点の構築に成功しています。
同社では総合アカウントで数千万人規模、特定カテゴリー向けアカウントでも数千万人規模の友達登録を獲得し、複数のブランド別アカウントを含めると合計50個以上のアカウントを運用しています。
メッセージングプラットフォームを選択した理由は、日本国内のスマートフォン普及率とアプリ利用率の高さにあります。国内のほぼすべての消費者が日常的に利用するプラットフォームであるため、広告メディアとしての価値、キャンペーン応募窓口としての機能、そして顧客データ取得の手段として、極めて有効な選択肢となっています。
複数アカウント運用の戦略的意義
複数のブランドアカウントを運用する際、当初は「総合アカウントとカテゴリー別アカウントで顧客が重複しているのではないか」という懸念がありました。しかし、実際にデータ分析を行った結果、意外な発見がありました。
総合アカウントと特定カテゴリーアカウントの間で、数十パーセントレベルで顧客が異なることが判明したのです。さらに、特定ブランドのアカウント登録者の中にも、関連する他のブランドアカウントに未登録の顧客が多数存在することが分かりました。この発見により、複数アカウントを戦略的に活用することで、相乗効果を生み出せる可能性が明らかになりました。
CDP活用によるセグメンテーション配信の高度化

データクリーンルームによる顧客行動分析
CDP導入の最大の目的は、顧客データを統合し、より精度の高いセグメンテーション配信を実現することです。
ある企業では、CDPのデータクリーンルーム機能を活用し、メッセージングプラットフォーム内の顧客行動データと自社データを掛け合わせた分析を実施しました。
従来は、登録された友達全員に対して一斉配信を行うマスアプローチが主流でしたが、メッセージの開封履歴を詳細に分析したところ、数ヶ月間にわたってメッセージを開封していない顧客が相当数存在することが判明したのです。特に、3〜4ヶ月以上未開封の顧客は、その後も開封する可能性が極めて低いという傾向が明らかになりました。
セグメント配信による開封率の大幅向上
この分析結果を基に、一定期間未開封の顧客と、定期的に開封している顧客を分けて、異なるコミュニケーション戦略を実施する実験を行いました。
未開封顧客には再エンゲージメントを促す特別なメッセージを、アクティブ顧客には通常のプロモーション情報を配信するという戦略です。
その結果、開封率が大幅に向上しました。さらに注目すべきは、セグメントを絞り込んだにもかかわらず、実際にリーチできた人数は減少せず、クリックなどのアクションを起こした顧客数もほぼ同等だったことです。つまり、無駄な配信を削減しながら、効果は維持できたのです。この施策により、配信コストの削減と効率性の向上を同時に実現することができました。
プレディクティブスコアリングによる購買予測
セグメンテーション配信の精度をさらに高めるため、機械学習を活用したプレディクティブスコアリング機能の導入も進められています。従来のセグメンテーションでは、アンケートで「◯◯ドリンクが好き」と回答した顧客を「◯◯ドリンク好きセグメント」として扱っていましたが、このデータは取得から長期間経過しており、現在の購買意向を正確に反映していない可能性がありました。
そこで、複数のデータソースを組み合わせた機械学習モデルを構築しました。アンケートデータ、キャンペーン応募データ、メッセージングプラットフォーム内の行動データ、そして外部から取得したサードパーティデータを統合し、どのデータが購買予測に最も有効かを分析しました。
その結果、意外な発見があったようです。単純な「好き嫌い」の回答よりも、友達登録からの経過期間、バナークリック後の時間間隔、メッセージ開封のパターンなど、行動データの方が購買予測に有効であることが判明したのです。この知見により、より納得性の高い購買予測セグメントを作成できるようになり、ビジネスニーズに合った効果的な配信が実現しました。
【関連情報】
CDP活用の詳細については、こちらの製品サイトをご覧ください
具体的な成果と効果測定

開封率向上とコスト削減の両立
CDP導入による最も顕著な成果は、セグメンテーション配信による開封率の大幅な向上です。一定期間未開封の顧客を分離し、アクティブな顧客に最適化されたメッセージを配信することで、開封率が大きく改善しました。
さらに重要なのは、この施策が単なる開封率向上だけでなく、コスト削減にも貢献したことです。メッセージングプラットフォームの配信には、送信数に応じたコストが発生します。セグメントを絞り込むことで無駄な配信を削減し、配信コストを低減しながら、実際のリーチ人数やアクション数は維持できたのです。
この「効率性と規模感の両立」は、マーケティング施策において極めて重要な成果といえます。限られた予算の中で最大の効果を引き出すという、すべての企業が直面する課題に対する一つの解答を示しています。
クロスセル・アップセルの機会創出
複数アカウント間の顧客被り分析により、新たなビジネス機会も見えてきました。ある製品ブランドのアカウント未登録だが、総合アカウントには登録している顧客に対して、そのブランドの情報を配信するという施策です。
例えば、ビタミンサプリ製品のアカウント未登録者に対して、総合アカウントからビタミンサプリ関連のメッセージを配信し、ブランドアカウントへの登録を促進します。一方、既にビタミンサプリブランドアカウントに登録している顧客には、より深い関係性を構築するための異なるコミュニケーション戦略を展開します。
この手法により、新規顧客獲得のROI(投資対効果)が大幅に向上し、大規模な広告出稿に頼るのではなく、既存の自社が保有する顧客基盤(ファーストパーティデータ基盤)を活用することで、効率的な新規獲得とリテンション促進を同時に実現できるという好例となります。
【関連情報】
AI基盤の比較検討については、こちらの資料が参考になります。
成功のための組織体制と実装のポイント

部門間連携の重要性
CDP導入プロジェクトを成功させるためには、複数の部門間での緊密な連携が不可欠です。この事例では、主に3つの部門が関わっています。
まず、IT部門(情報システム部門)は、データプラットフォームの開発・運用とファーストパーティデータの取得を担当します。
次に、施策チャネル側として、ブランド担当者や事業側のオペレーション運用メンバーが、実際のマーケティング施策の企画・実行を行います。
そして、配信オペレーションを担当する代理店も重要なステークホルダーです。
これらの部門は、通常は異なるレイヤーで業務を行っており、日常的な接点が少ない場合もあります。しかし、CDP活用においては、「正解データの定義」「セグメント配信のオペレーション設計」「代理店への指示・運用方法の周知」など、すべての部門が協力して取り組む必要があります。
デジタル部門が中心となってこれらの部門を繋ぎ連携しながらプロジェクトを進めることが、成功の鍵となります。事業会社がデータに積極的に関与し、ビジネス目標と技術実装を一体化させることで、実効性の高い施策が実現するのです。
製造業におけるAI基盤活用については、こちらの資料をご参照ください。
まとめ:AI活用の可能性
AI駆動型マーケティングへの進化
現在のセグメンテーション配信は、マーケティング担当者が仮説を立て、データを分析し、セグメントを定義するという手作業が中心です。しかし、今後はAIがこのプロセスを大幅に効率化することが期待されています。
将来的には、「ビタミンサプリを飲みそうな顧客を見つけてください」という指示をAIに与えるだけで、必要なデータを自動的に判断し、最適なセグメントを作成し、配信まで実行するという、エンドツーエンドのAI駆動型マーケティングが実現する可能性があります。
このような自動化により、マーケティング担当者は戦略立案やクリエイティブ開発など、より高度な業務に集中できるようになります。また、AIが継続的に学習し進化することで、セグメンテーションの精度も時間とともに向上していくことが期待されていくでしょう。
まとめ
本記事では、あるメーカーが取り組んだCDP(顧客データ基盤)を活用した先進的な大規模顧客セグメンテーションの実践事例をご紹介しました。
メッセージングプラットフォームを軸とした顧客接点の構築、データクリーンルームとプレディクティブスコアリングによる配信効率の向上、そして部門間連携による成功のポイントまで、具体的な成果とともに解説いたしました。
特に注目すべきは、セグメンテーション配信による開封率の大幅向上と、配信コスト削減の両立です。無駄な配信を削減しながら、実際のリーチ人数やアクション数は維持できたという成果は、限られた予算の中で最大の効果を引き出すという、すべての企業が直面する課題に対する一つの解答を示しています。
CDP導入を成功させるためには、技術的な実装だけでなく、IT部門、事業部門、代理店などの複数のステークホルダーを繋ぐ組織体制の構築が不可欠です。
今後、AI駆動型マーケティングの進化により、さらに効率的で効果的な顧客コミュニケーションが実現していくでしょう。段階的に基盤を強化し、継続的にPDCAサイクルを回すことで、持続可能なデジタルマーケティング基盤を構築することが可能です。
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【お役立ち資料】
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