需要予測を用いて在庫管理を改善するには?4つの計算式と安全在庫の求め方

需要予測とは、過去の販売データや市場動向をもとに将来の需要量を見積もる手法です。在庫管理に組み込むことで、過剰在庫と欠品の両方を同時に抑えられます。代表的な計算式には移動平均法・指数平滑法・加重移動平均法・時系列分析法があり、Excel・在庫管理システム・AIといったツールで実践できます。
この記事で扱う需要予測は、在庫の発注量やタイミングを最適化するための定量的な予測を指します。マーケティング領域での市場規模推定とは目的も手法も異なるため、あらかじめご承知おきください。
なお、需要予測の基盤となるのは質の高い顧客データです。私たち株式会社ジーニーでは、購買履歴や顧客行動データを複数チャネルからノーコードで統合・分析できるGENIEE CDPを提供しており、散在するデータを一元管理することで予測の精度向上に貢献します。
在庫管理における需要予測の目的と他手法との違い

在庫管理において、過剰在庫と欠品は相反するリスクです。過剰在庫は資金を倉庫に眠らせ、廃棄コストや保管コストを膨らませます。一方、欠品は販売機会の喪失だけでなく、顧客の信頼低下という形でブランドにも傷をつけます。
需要予測は、「過去の販売データや市場動向から将来の需要量を見積もり、適正な在庫量を維持するための手法」です。予測精度が上がるほど、発注量を現実の需要に近づけられるため、在庫の積みすぎも不足も起きにくくなります。
需要予測が在庫管理に与える影響
在庫管理の精度不足がもたらす経済的な損失は、食品ロスの統計から規模感を掴めます。消費者庁の公表データによると、令和5年度の食品ロス発生量は約464万トンで、うち事業系が約231万トンを占めます。これは国民一人当たり毎日おにぎり1個分(約102g)の食品が廃棄されている計算になります(出典:消費者庁「食品ロスについて知る・学ぶ」)。
そこで、需要予測が有効となります。在庫管理に対しては大きく4つの効果があります。
- 需要を事前に把握することによる欠品の防止
- 必要以上の仕入れを避けることで過剰在庫を削減
- 適正在庫の維持を通じた販売機会の確保
- 発注判断の自動化・定型化による業務効率化
食品ロスには需要予測以外の要因も含みますが、適切な需要予測が廃棄削減に貢献する余地は大きいと考えられます。
需要予測の効果は在庫管理にとどまりません。適正な在庫水準が維持されると、仕入れや製造の計画が安定し、キャッシュフローの改善にも波及します。
基準在庫法・標準偏差法との違い
在庫管理でよく使われる従来手法に、基準在庫法と標準偏差法があります。需要予測法とどう違うのか、それぞれの仕組みと限界を見ていきます。
基準在庫法
基準在庫法は、過去の最大出荷量を基準として在庫の上限を設定する手法です。「最悪のケースでも対応できる在庫を持つ」という発想であるため、シンプルで理解しやすい利点があります。ただし、需要のピークに合わせた在庫を常時確保するため、平常時には過剰在庫が発生しやすくなります。
季節変動やトレンドが生じたときにも、基準値を手動で見直さない限り対応が遅れるという課題があります。
標準偏差法
標準偏差法は、過去の出荷量のばらつき(標準偏差σ)を使って安全在庫を算出する手法です。基準在庫法より統計的な根拠があり、需要変動に応じた安全在庫を設定できます。しかし「出荷実績のσ」を使うため、需要予測法と比較すると安全在庫が大きくなる傾向があります。
需要予測法の優位性
需要予測法の優位性は、「予測誤差のσ」を使える点にあります。実際の出荷量がどれだけばらつくかではなく、予測値と実績値の誤差がどれだけ小さいかを基準にするため、予測精度が出荷実績の変動より高ければ安全在庫を数学的に圧縮できます。3手法の違いをまとめると以下の通りです。
| 手法 | 基準となる指標 | 安全在庫の傾向 | 向いている場面 |
| 基準在庫法 | 過去の最大出荷量 | 大きくなりやすい | 需要変動が少ない・シンプルさ優先 |
| 標準偏差法 | 出荷実績のσ | やや大きい | 統計管理を始めたい・中規模以上 |
| 需要予測法 | 予測誤差のσ | 予測精度に応じて圧縮可能 | データが蓄積されている・精度を追求したい |
基準在庫法や標準偏差法でも在庫管理は成り立ちますが、在庫圧縮と欠品防止を両立させたい場合は需要予測法の導入が選択肢になります。
在庫管理で使われる需要予測の4つの計算式

需要予測の手法は一つではありません。品目の特性やデータ量、担当者のスキルによって、適切な手法は変わります。実務で導入しやすい順に並べると、次の4つです。
- 移動平均法
- 指数平滑法
- 加重移動平均法
- 時系列分析法(ARIMAなど)
1. 移動平均法
移動平均法の計算式は次の通りです。
次期予測値 = 直近n期間の実績合計 ÷ n
例えば、過去6カ月の販売数量が順に「120・130・115・125・140・130」だった場合、次の月の予測値は(120+130+115+125+140+130)÷6=126.7個となります。nの期間を3カ月にするか6カ月にするかは品目の需要安定度によって調整します。
この手法が優れているのは、計算の単純さです。特別な統計知識がなくてもExcelで実装でき、導入ハードルが最も低い点が強みです。需要が安定した定番品、たとえば日用品や食料品の定番ラインには向いています。
一方で、トレンドや季節変動への反応が遅いという弱みがあります。需要が急増している時期でも、過去の平均値で予測するため、予測値が実態より低くなりがちです。需要の変動が大きい品目には、次に紹介する手法の採用を検討してください。
2. 指数平滑法
指数平滑法の計算式は次の通りです。
次期予測値 = α × 今期実績 +(1-α)× 今期予測値
αは0から1の間で設定する平滑化係数です。たとえばα=0.3で、今期実績が150個・今期予測が130個だった場合、次期予測は0.3×150+0.7×130=136個となります。
αの値が予測の性格を大きく左右します。αを0.7のように大きく設定すると、直近の実績に強く引っ張られるため、需要の急変に敏感に反応します。逆にαを0.1のように小さくすると、過去のデータに重きを置くため、短期の変動を平滑化してなだらかな予測になります。
αをどう設定するかは試行錯誤が伴いますが、過去の実績で予測誤差を最小化するαを探す方法があります。トレンドが存在する品目では、ホルト法(二重指数平滑法)と呼ばれる拡張バージョンを使うことでトレンド成分も加味できます。
3. 加重移動平均法
加重移動平均法の計算式は次の通りです。
次期予測値 = Σ(各期間の実績 × 重み)÷ 重みの合計
たとえば3カ月分のデータに「1カ月前:重み3、2カ月前:重み2、3カ月前:重み1」と設定し、実績が順に「140・120・110」だった場合、次期予測は(140×3+120×2+110×1)÷(3+2+1)=128.3個となります。
加重移動平均法と移動平均法の違い
移動平均法との違いは、各期間に異なる重みを設定できる点です。直近のデータに大きな重みを割り当てることで、移動平均法より速やかに直近の変動を予測に反映できます。定番品でありながら直近の動向もある程度取り込みたい品目に向いています。
難点は、重みの設定に経験値や試行錯誤が必要なことです。品目が数十点なら調整可能ですが、SKU数(Stock Keeping Unit:最小在庫管理単位) が数百を超えると品目ごとに重みを最適化する工数が膨らみます。管理品目が多い場合は、次の時系列分析法か後述のシステム活用を検討する方が現実的です。
4. 時系列分析法(ARIMAなど)
時系列分析法の代表格であるARIMAモデルは、3つの要素で構成されます。自己回帰(AR:過去の値が現在に与える影響)、差分(I:トレンドを除去して時系列を定常化する処理)、移動平均(MA:過去の予測誤差が現在に与える影響)の3つです。なお、季節性にも対応する場合はSARIMAモデルを用います。 これらを組み合わせることで、季節性・トレンド・自己相関を同時にモデル化できます。

例えば、毎年夏に需要が跳ね上がるアパレル品目や、年末に需要が集中する食品は、ARIMAのような手法が予測精度の面で有利です。移動平均法では見落としがちな季節パターンを、モデルとして組み込めるためです。
ただし、導入のハードルは4手法の中で最も高くなります。精度の高いモデルを構築するには2年以上の実績データが必要で、パラメータ(p, d, q)の設定には統計の知識も求められます。Pythonなどのプログラミング環境や、統計ソフトの活用が前提になるケースがほとんどです。
高い予測精度が必要で、かつデータとスキルが揃っている場合に採用を検討してください。
需要予測を安全在庫・発注点に落とし込む計算式

計算式を使って需要量を予測できても、それだけでは在庫は減りません。予測結果を安全在庫と発注点(ROP)というパラメータに接続して初めて、日々の発注オペレーションが変わります。
安全在庫の計算式と3つのパラメータ
安全在庫の計算式は次の通りです。
安全在庫 = 安全係数 × 需要の標準偏差 × √リードタイム
3つのパラメータをそれぞれ確認します。
1. 安全係数
安全係数は、欠品をどの程度許容するかというサービスレベルから導かれる統計的な値です。
欠品率5%(サービスレベル95%)で運用する場合は1.65、欠品率1%(サービスレベル99%)なら2.33を使います。サービスレベルを上げるほど安全係数は大きくなり、安全在庫も増えます。
自社の欠品許容度とコストのバランスを見て設定してください。
2. 需要の標準偏差
需要の標準偏差が、需要予測導入の効果が最も出る部分です。従来の標準偏差法では「出荷実績のσ」、つまり過去の出荷量がどれだけばらついていたかを使います。需要予測法を使うと「予測誤差のσ」、つまり予測値と実績値の差がどれだけ小さかったかを使えます。
予測精度が出荷実績の変動より高ければ、σが小さくなり、安全在庫を数学的に圧縮できます。これが需要予測を導入する最大の定量的メリットです。
3. 発注から入荷までのリードタイム
リードタイムは、発注してから入荷するまでの実測日数を使います。
仕入先のカタログに記載された標準納期をそのまま使うと、実際のリードタイムとずれが生じ、計算上は適正でも現場で欠品が起きるリスクがあります。過去の入荷実績から平均リードタイムを算出することを推奨します。
発注点(ROP)の算出方法
安全在庫が決まれば、発注点(ROP)を計算できます。
発注点(ROP) = 平均需要量 × リードタイム + 安全在庫
在庫がROPを下回った時点で発注をかける、というルールを設定すれば、発注のタイミングを自動的に判断できます。例えば、1日あたり平均10個売れる品目でリードタイムが5日、安全在庫が15個なら、ROP=10×5+15=65個です。在庫が65個を割り込んだら発注する、という形で運用します。
リードタイムと発注間隔のズレには注意
ここで注意が必要なのは、リードタイムと発注間隔のずれです。
定期発注方式を採用している場合、ROPを設定しても発注タイミングが週1回や月1回に固定されているため、ROP割れを検知してから実際に発注できるまでにタイムラグが生じます。実務ではこのズレを考慮した調整が必要です。
安全在庫・ROPは一度設定したら終わりではありません。需要のトレンドや季節性、サプライヤーのリードタイムは時間とともに変化します。四半期ごとなど定期的にパラメータを見直す運用を組み込むことで、予測精度の劣化を防ぎ、在庫管理の精度を持続できます。
需要予測の実践に使う3つのツールと選び方

どの計算式を使うかと同じくらい、何のツールで実装するかが実務の成否を左右します。自社の品目数・データ量・予算・担当者のスキルに合ったツールを選ぶことが、継続的な運用の前提になります。導入のステップ順に並べると、選択肢は3つです。
- Excelを使った需要予測
- 在庫管理システムの活用
- AIによる需要予測
1. Excelを使った需要予測
追加コストなしにすぐ始められるのがExcelの最大の利点です。既存の販売データがあれば、関数を組み合わせるだけで需要予測を実装できます。
特に使いやすいのが2つの関数です。FORECAST.ETSは季節性を自動検出して予測値を算出する関数で、季節変動がある品目にも対応できます。TREND関数は線形回帰ベースの予測で、右肩上がりや右肩下がりのトレンドがある品目に向いています。
どちらも専門的な統計知識がなくても使えるため、需要予測の入り口として適しています。
2. 在庫管理システムの活用
在庫管理システムは、リアルタイムのデータ連携と自動計算によってExcel管理の限界を解消します。販売データ・入荷データ・在庫数が自動で同期されるため、手入力のミスや更新漏れが発生しにくくなります。
移行を検討すべきサインとして、次の3つが代表的です。
- 管理SKU数が数百以上に増えてExcelのファイル管理が煩雑になってきた場合
- 複数拠点の在庫を一元管理する必要が生じた場合
- Excelの入力ミスや更新遅れによるトラブルが繰り返されている場合
これらのいずれかに当てはまるなら、システム移行の費用対効果を試算する価値があります。
主な機能カテゴリとしては、需要予測の自動計算・安全在庫の自動算出・発注アラートの通知・ロケーション管理・バーコード連携などがあります。自社の課題に直結する機能が揃っているかを確認した上で製品を選ぶと、導入後のミスマッチを防ぎやすくなります。
3. AIによる需要予測
AIによる需要予測の最大の強みは、統計手法では取り込みにくい外部変数を活用できる点にあります。気象データ・イベント情報・SNSのトレンドといった変数を需要予測モデルに組み込むことで、統計手法では捉えきれない需要変動を補足できます。
日本企業のAI導入状況については、PwCコンサルティング合同会社の調査データが参考になります。サプライチェーンにおけるAI導入では、試験導入を含めて何らかの導入段階に至っている企業は全体の25%程度(導入済み11%、試験導入中14%)にとどまります。計画業務の中では販売・需要計画が18%と最もAI導入が進んでいる分野です(出典:PwCコンサルティング合同会社「2025年 サプライチェーンにおけるAI活用実態調査」、調査対象:サプライチェーン関連部門の経営幹部・リーダー506名)。
ただし、AIを導入すれば即座に成果が出るわけではありません。モデルの学習には十分なデータ量(目安として2〜3年分以上の実績データ)が必要で、初期導入コストも相応にかかります。統計手法で十分な精度が出ている品目にまでAIを適用しても、費用対効果が合わないケースもあります。
まずは需要変動が大きく、外部変数の影響を受けやすい特定の品目カテゴリに限定して試験導入し、効果を確認してから展開範囲を広げるアプローチが現実的です。
需要予測と在庫管理の改善まとめ

需要予測は、過剰在庫と欠品を同時に抑えるための在庫管理の中核手法です。
移動平均法・指数平滑法・加重移動平均法・時系列分析法の4つの計算式を品目特性に応じて使い分け、算出した予測値を安全在庫と発注点のパラメータに接続することで、日々の発注オペレーションが変わります。
需要予測の精度を高めるには、散在するデータの統合が出発点になります。私たちは、複数チャネルの購買履歴や顧客行動データをノーコードで一元管理できるGENIEE CDPを提供しています。予測モデルに投入するデータの品質を上げることが、安全在庫の圧縮と欠品防止の両立に直結します。
手順の整理と概念の理解だけで在庫管理は変わりません。まず手元にある販売データを確認し、移動平均法など最もシンプルな手法から需要予測を試してみてください。そのひとつの試算が、在庫管理改善の最初の一歩になります。



























