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金融業界におけるデータファブリックな基盤構築とセキュリティガバナンスの確保が求められる理由

公開日: / 更新日: / データ活用/CDP
金融業界におけるデータファブリックな基盤構築とセキュリティガバナンスの確保が求められる理由

この記事で分かること

  • 金融グループ全体のデータ統合を実現するデータファブリック構想の全体像
  • クラウドDWHを中核としたセキュアなアーキテクチャ設計の実践手法
  • アジャイル開発手法による段階的なサービスローンチの進め方
  • データガバナンスと個人情報保護を両立させる運用体制の確立方法
  • AIBIツール活用による現場主導のデータ分析文化の醸成事例

はじめに

デジタルトランスフォーメーション推進において、特にエンタープライズ企業を始めとする複合事業を展開するグループ全体のデータを統合し、迅速かつ安全に活用できる基盤の構築は喫緊の課題となっています。

特に金融業界においては、銀行や証券を軸にそれらの事業に付随するカード事業やローン事業、不動産からホテル、旅行事業まで様々な業種業態をグループ内で展開する企業が多い業界であり、膨大な個人情報をグループで保有していることから、昨今の社会背景を鑑みた場合、厳格なセキュリティ要件と個人情報保護の観点でデータ基盤の設計と運用には高度な専門性が求められます。

本記事ではある金融業界にありがちな、グループ各社に散在するデータを統合、全社横断でのデータ活用を実現するにあたってのデータファブリックな環境構築における課題やその解決手法について触れてみたいと思います。

クラウドDWHを中核としたデータ基盤の構築から、セキュアなガバナンス体制の確立、そして現場主導のデータ活用文化の醸成に至るにはどういった対処が必要となるのか。

DX推進部署やシステム部門の責任者の皆様にとって、自社でのデータ基盤構築を検討する際の具体的な参考となる内容です。

データ利活用における課題

グループ各社に散在するデータサイロ

多くの金融グループが直面する課題として、グループ各社がそれぞれ独自のシステムを運用しており、データが分散・孤立している状況があります。ある金融グループでも同様の課題を抱えています。

各部門や関連会社が保有するデータは、それぞれ異なるフォーマットやシステムで管理されており、横断的な分析を行うには膨大な手作業が必要となります。

特に、顧客データや取引データなど、ビジネス上重要な情報が各所に散在していている場合は、グループ全体での戦略的なデータ活用が困難です。

セキュリティとガバナンスの両立

金融業界では、個人情報保護法や金融庁のガイドラインなど、厳格な規制への対応が求められます。

データを統合して活用する際には、セキュリティを確保しながら、必要な部門に必要なデータを適切に提供するガバナンス体制の構築が不可欠となるのです。

しかし、従来の金融業界では一般的なオンプレミス環境では、アクセス制御の柔軟性に欠け、データの利活用とセキュリティの両立が難しい状況となります。

また、データの所在や利用状況を一元的に管理する仕組みも不十分であり、コンプライアンス対応にも課題が残ります。

現場のデータ分析スキルの不足

データ活用を推進する上で、もう一つの大きな課題が現場のデータ分析スキルの不足が挙げられるでしょう。

従来、データ分析はデータサイエンティストを始めとする専門のアナリストやIT部門が担当し、現場の業務担当者が自らデータを分析することは非常に困難ではないでしょうか。

Excelを駆使した手作業での集計や、複雑なSQLクエリの作成が必要となるため、分析結果を得るまでに専門スキルを保有したエンジニアの介在や膨大な作業時間が必要となり、ビジネスのスピード感に対応できないという問題も発生します。

今やスピードの時代。現場主導でデータを活用し、迅速な意思決定を支援する仕組みが求められているのです。それは金融業界にとっても同様となります。

データファブリック構想の全体像

データファブリックとは

データファブリックとは、組織内に散在する多様なデータソースを統合し、シームレスにアクセス・活用できるようにするアーキテクチャの概念です。

物理的にデータを一箇所に集約するのではなく、論理的な統合層を設けることで、データの所在を意識することなく必要な情報にアクセスできる環境を実現します。

データファブリックな環境はSaaSシステムの台頭・乱立によって企業内のデータサイロが社会課題となっている現代の企業にとって求められるデータ基盤構築の1つの考え方となります。

類似した考え方ではデータメッシュといったものもあります。その違いにも少し触れてみたいと思います。

データメッシュとデータファブリックとの違いやメリット・デメリット

項目データメッシュデータファブリック
アーキテクチャ分散型・ドメイン駆動統合型・集約型
所有権各ドメインチームが所有中央データチームが管理
データ提供方式製品としてのデータサービスとしてのデータ
スケーラビリティ水平スケーリング垂直スケーリング

データメッシュのメリット

  • スケーラビリティ: ドメイン単位で独立して拡張可能
  • 所有権の明確化: 各チームがデータ品質に責任を持つ
  • ビジネスアジリティ: ドメイン固有のニーズに迅速に対応
  • 技術的自由度: 各ドメインが最適なツール・技術を選択可能

データメッシュのデメリット

  • 複雑性: 分散管理による運用の複雑さ
  • 初期投資: 各ドメインでのインフラ構築が必要
  • データ統合の難しさ: クロスドメイン分析が複雑
  • スキル要件: 各チームにデータ専門知識が必要

データファブリックのメリット

  • 統一性: 一元管理による一貫性の確保
  • シンプルな運用: 中央集約型で管理が容易
  • クロスドメイン分析: 全社的なデータ活用が簡単
  • 導入コスト: 既存インフラの活用で初期投資が少ない

データファブリックのデメリット

  • スケーラビリティの限界: 中央集約型のボトルネック
  • ビジネス対応性: 全社的な調整が必要で意思決定が遅い
  • 単一障害点: 中央システムの障害が全体に影響
  • 柔軟性の欠如: 各ドメインの特殊なニーズに対応しにくい

選択のポイント

  • データメッシュ向き: 大規模組織、複数の独立したビジネスドメイン、高い自律性が必要
  • データファブリック向き: 中小規模組織、統一的なデータ戦略が必要、シンプルな運用を優先

実際には両者を組み合わせるハイブリッドアプローチを採用する企業も増えています。

ある金融グループにおいてはデータファブリックな基盤構築の考え方が徐々に浸透し始めている動きが見られます。

とある金融グループでは傘下にある各社のデータを統合する基盤をデータファブリックな環境で構築しました。

その際にはクラウドDWHを中核に据え、データシェアリング機能を活用することで、セキュアかつ効率的なデータ連携を実現しているということです。

クラウドDWHを中核としたアーキテクチャ

データファブリック基盤の中核となるのが、クラウド型のデータウェアハウス(DWH)となります。

これらのソリューションにおいては、スケーラビリティ、パフォーマンス、セキュリティの面で優れた特性を持ち、金融業界の厳格な要件にも対応できる設計が求められます。

金融業界における厳格な法制度のもと、アーキテクチャの設計においては、金融業界標準の厳格なセキュリティ要件を満たすことが大前提となります。

データの暗号化、アクセス制御、監査ログの記録など、多層的なセキュリティ対策が施された実装が必要となります。

また、膨大なデータを取り扱う場合、データシェアリング機能を活用するなどでをゼロコピー形式で、グループ各社間でデータを共有できる仕組みなども有効となります。

ゼロコピーにより、データの重複を避け、ストレージコストを削減しながら、リアルタイムに近い形でのデータ連携が可能となります。

BIツールによる現場主導の分析環境

データ基盤の構築と並行して、現場の業務担当者が自らデータを分析できるAI時代に最適なデータ分析環境の整備も同時に必要となります。より直感的な操作性と、AIエージェントとの対話型の分析考察機能を持つ次世代BIツールなども最近ではリリースされていますのでそういったAIBIダッシュボード一体型のデータプラットフォームを採用すると良いのではないでしょうか。

これらのBIツールでは、自然言語での質問に対してAIが適切なデータ分析を実行し、ビジュアライゼーションを自動生成する機能を備えています。

つまり、AIBI搭載型データ基盤の運用においては、SQLやプログラミングのスキルがない業務担当者でも、簡単にデータ分析を行えるようになるのです。

まさにデータの民主化がそこに実現します。

従来、データアナリストレベルのスキルがなければダッシュボード作成が難しいという課題がありましたが、この新しいBIツールの導入により、現場主導でのデータ活用が大きく前進していくことでしょう。

ウォーターホール型ではなくアジャイル開発の重要性

アジャイル開発手法の採用

データファブリック基盤の構築にあたっては、アジャイル開発手法が適しています。

従来のウォーターフォール型開発では、要件定義から設計、開発、テストまでを順次進めるため、仕様変更への対応が困難であり、実際にシステムが稼働するまでに長い期間を要します。

アジャイル開発では、短期間のスプリント(開発サイクル)を繰り返しながら、優先度の高い機能から順次開発・リリースしていきます。

アジャイル開発の大きなメリットは、仕様変更に柔軟に対応できることです。開発途中で新たな要件が発見されたり、ユーザーからのフィードバックを受けたりした場合でも、次のスプリントで対応することが可能となります。同時に優先度の高い機能から早期にリリースできるため、ユーザーは早い段階から実際のシステムを使用し、フィードバックを提供できるといったメリットもあります。

段階的サービスローンチの重要性

データファブリック基盤のサービスローンチは、段階的に進めることが肝要です。

第一段階では、個人情報を含まないユースケースからスタートし、基盤の安定性とセキュリティを確認しながら、徐々に適用範囲を拡大していくと良いでしょう。

第一段階のリリースでは、社内の既存サービスのログデータを基盤に取り込み、利用者の傾向分析を実施しながら現場にフィットさせていきます。

従来Excel関数を駆使して手作業で分析していた現場業務が、AIBI機能を活用することで、現場担当者だけでスピーディーかつ可視性の高いデータ分析が可能になります。

第二段階では、個人情報を含むユースケースへの対応が必要となります。

データ所管部門と他のユーザーでマスキングレベルを分けながら、セキュアに他部門のデータを利活用できる環境の提供が必要となります。この段階では、データ漏洩等を防ぐための運営体制の確立や、外部ツールを活用した環境構築の自動化など、より高度なガバナンス体制の整備を進めてく必要があります。過程の中では最も慎重且つ入念なテストを行いながら進行していく部分となります。

データガバナンスの担保において必要なこと

セキュアなアクセス制御

データファブリック基盤では、ユーザーが閲覧可能な領域のみにアクセスできるよう、厳格なアクセス制御の実装が必要となります。

事業部や部門、レイヤー毎の権限アクセス制御によって、ユーザーの所属部門や役割に応じて、適切なデータへのアクセス権限を付与するなどが該当します。

特に個人情報を含むデータについては、データ所管部門と他のユーザーでマスキングレベルを分け、必要最小限の情報のみを提供する仕組みの構築が必須となります。

これれのデータガバナンスの担保により、データの利活用とプライバシー保護を両立させるといった環境の構築が実現するのです。

監視とコンプライアンス体制の強化

データファブリック基盤では、すべてのデータアクセスとクエリ実行のログを記録し、定期的に監査を実施していくことが重要です。

常時モニタリング体制の整備によって、不正なアクセスや異常なデータ利用を早期に検知し、迅速に対応できる体制整備が必要となります。

更に金融業界においては、特に金融庁のガイドラインや個人情報保護法など、関連法規への対応も徹底する必要があります。

データの取り扱いに関するポリシーを明確に定め、全ユーザーに周知徹底することで、コンプライアンスリスクを最小化する取り組みもあたりまえのように必要となってきます。

データファブリックな基盤構築におけるユースケース

製品VOC傾向分析

例えばデータ基盤が構築されたあとのユースケースとしては以下のような活用イメージが実現します。

自社製品のカスタマーサポートにおけるお客様の声やアンケートなどVOCの非構造化ログデータを基盤に取り込み、AIBIによる傾向分析の実施。

一般的にはアンケート回答ログデータはExcelやスプレッドシートなどにエクスポートされ関数を駆使して手作業で集計・分析している企業も多いのではないでしょうか。

データファブリック基盤とAIBIツールの活用によって、リアルタイムに近い形でのデータ分析が可能となるのです。

この取り組みにより、製品の利用状況や利用者の声を可視化し、新製品開発やサービス改善のための具体的な示唆を得ることができるようになります。

大量Excelデータの統合と可視化

次のユースケースイメージでは、各事業部や部署によってフォーマットが大きく異なり、ローカルPCでは扱いが困難な膨大なExcelファイルデータの取り扱いの効率化です。

データファブリック基盤とデータを連携し取り込めば数十数百万行に及ぶデータを自動で統合・整備し、AIBIツールで容易に可視化できる環境も整備可能です。もう集計作業で徹夜するなどはなくなることでしょう。

様々な外部システムとの連携データ統合

最後のユースケースイメージは、代理店やパートナー企業から提供される外部データと、自社が保有する顧客データを統合しマーケティングに利活用する際の運用効率化です。

データ基盤に搭載されたETL機能を活用することで、外部データを効率的に取り込み、名寄せやクレンジングを自動で実施することで顧客の360度での解析やそれに伴う1to1マーケティングの精度向上も実現します。

まとめ

データファブリック基盤は、金融業界に限らず現在も様々な業界に浸透していくことと思われます。

今やAIや機械学習を活用した高度な分析機能の実装や、リアルタイムデータ処理への対応などはどの企業でも求められる要件であり、次世代のデータ活用基盤への進化が全産業で求められています。

データガバナンスなデータ基盤を整備することでより強固なガバナンス体制を確立し、安全かつ効率的なデータ活用が今後国内企業にも広く求められていくでしょう。

今回は金融グループにおけるデータファブリックな基盤構築を行いグループ全体のデータ統合と活用を実現する先進的な取り組みを想定ユースケースと合わせて紹介しました。

データ基盤の構築やCDP/DWHの導入をご検討の際は、ぜひ専門家にご相談ください。

【関連情報】

次世代型CDP製品サイト

データ基盤構築に関する詳しい情報は、以下のホワイトペーパーでもご紹介しています。

・AI基盤比較ガイド:https://geniee.co.jp/media/ebook/ai-platform-hikaku/

・CDP活用ガイド:https://geniee.co.jp/media/ebook/gl-cdp-ebook001/

データ活用基盤の構築やDX推進に関するご相談は、お気軽にお問い合わせください。

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