新規事業は上手くいかないのが当たり前。現場に埋もれがちな問題解決の鍵を見つけるコツ【後編】
酒井 雅弘(さかい・まさひろ)
営業支援サービスを提供する株式会社FUTUREWOODS 会長。1978年、日本リクルートセンター(現・リクルートホールディングス)入社。1988年、ファックス一斉配信サービス「FNX」事業責任者となる。2013年から3年間、株式会社ネクスウェイ取締役コミュニケーション事業部長を務める。
http://futurewoods.co.jp
後編 組織の力を目覚めさせ動かすためには適正な目標設定とシンプルな道筋が必要
リクルート、そしてそこから分社化したネクスウェイと、ふたつの企業で事業のリーダーとして、また取締役として活躍した酒井雅弘氏。リクルートでは「伝説の営業マンに聞け!」に登場した小川さん、山本さん、小山さんらが所属した事業部を立ち上げるなど、数々の営業マンと事業を成長させてきた。その手腕を買われネクスウェイでも業績のV字回復を担った酒井氏に、行き詰まりを打破し、事業を伸ばすポイントを語っていただいた。
組織の空気を変えるためには、ショックを与えて人を動かす
浅井
ネクスウェイに3年間おられた間、最も大きな成果は何だったのでしょうか。
酒井
実績という数字面以上に、会社全体の空気、社員の意識を変えることができたこと。これがいちばん大きな成果だったと思っています。
浅井
現場で答えを見つけて、周囲の背中を押して、動きにつなげていくというやり方ですね。
酒井
そう、でも方法はひとつではありません。そこもケースバイケースで変えていく必要があります。仮に僕がずっとリーダーとしてその場に居続ける前提ならば、まったく別のやり方をしたでしょうね。リーダーシップを発揮して力業で引っ張っていく、というやり方もあったでしょう。でもそれだと、僕がいなくなってしまったら、そこで「流れ」が失速してしまう。継続しないんです。それでは意味がありません。
いずれにせよ、会社の空気を変えるにはショックも必要ですよ。それまで「これでいいんだ」と固定されていたものを、違う方向へ動かすわけですから。
浅井
確かに、きっかけとして何かのショックを与えれば、そこから先に動きが生まれる。というより、ショックがなければ動くためのきっかけが得られない。
酒井
そうです、最初のきっかけが必要なんです。でもそれが奏功したのは、会社の中にもともとのポテンシャルがあったからだと僕は思ってます。
「イキイキ稼ぐ」というスローガンにしても、そうした欲求が彼らの中にあった。僕は背中を押しただけなんです。それで結果が出たということは、それだけの力が組織にあった。そういうことでしょうね。
実力の120%目標を超えていけ
浅井
立てた目標をクリアできずに苦しんでいる組織は多いと思います。その状態を乗り越えるには、どうすればよいのでしょうか?
酒井
いろいろありすぎて、難しいですね…。難しいというよりも、特に目新しい、変わった秘訣があるわけでもないんです。目標を達成することだけ考えるなら、クリアできる前提で目標設定をすればいい。もちろん低くては意味がないですから、僕はだいたい実力値の120%くらいを想定して目標を立てていました。
浅井
「実力の」120%ですか。前年同期比とかではないんですか。
酒井
そう、ウチの実力はこれくらいという線を出しておいて、その120%を目標にする。けっこう高いですよ、この数値は。でもクリアできない数字ではない。だいたいこれくらいが目標値としていい、と言われます。今のご時世では、2割増しは厳しいかもしれませんが。
浅井
でも世の中には、なかなかそこがうまくいかない会社も多いと思います。
酒井
一般的に多いのは、手段の目的化ですね。目標といっても、いろいろなレイヤーがあって、高次の目標は「会社の理念」そのものです。その下の段階に「会社の理念を実現するため、これを達成しよう」という目標がある。そのためには売上をこれくらい維持しよう、さらにそのためには年間の収益をこれくらいに…という話になる。ところが低次元の小さな目標にばかり目が行ってしまうと、高次の目標が見えなくなる。小さな目標はその上の目標を達成するための手段に過ぎないんです。
浅井
そこを見失ってしまうと、本来は手段であるはずのものが、目標になってしまうのですね。
酒井
経営者であっても、ここを見失っている人は多いと思います。こうなると、その先に行こうという意欲も削がれてしまうんです。
目標に向かって努力するのは、辛いものです。その先にある素晴らしい何かがイメージできていないと、頑張れないですよ。そのイメージを明確に作り上げることはとても難しいですけれども、やはりそれは経営の仕事です。まずは経営者自身がそうした理念を、しっかり持っておくことが必要です。
新規事業を立ち上げ育てるために必要なたったひとつのこと
浅井
明確な言葉で標語やスローガンを作ったというお話がありましたが、それは事業では大事なことだなと感じました。単純明快で、しかも判りやすい。
酒井
事業を進める中では多くの価値観や方向性が生まれ、それをそのままにしておくと収拾がつかなくなってしまいます。ですが、指針としてひとつの標語、スローガンがあれば、すべてをそれに当てはめてみればいいんです。AとBと、どちらを選ぶかとなれば、どちらがその標語に合致しているかを見ればいい。会社の方向性にしても、「トラフィックで稼いで、自分たちはどうなりたいのか」というところから考えれば、「だったらこうしよう」という答えも見つけやすい。指針に沿っているから、誰もが納得できる道筋が見えてきます。
欲を言えば、こうして引き出された道筋が、なるべくシンプルなものであればなお良いです。あまりに曲がりくねっていたり複雑だったりすると、場面によって判断が変わってしまったり、混乱したりということも起こりますから。
浅井
酒井さんご自身、これまで多くの新規事業に関わってこられましたが、立ち上げにあたって重要視していることはありますか?
酒井
それはケースバイケースですから…一概には言えませんね。僕のやり方がすべての場合に通用するとも限らないし。ただ、新規事業はいろいろな障害にぶつかりますから、うまくいかないのが当たり前なんです。そうした障害を乗り越えて、さらに先へ進もうとするわけです。ですからどんなやり方をとるにしろ、指揮する人間の能力と情熱は、何よりもまず必要だと考えています。
浅井
やはり人が大事、ということですか。
酒井
やはり人は第一でしょう。そしてもうひとつ、組織がそうした人たちをしっかりバックアップし続けること。「応援し続ける」と言ってもいいかな。とても単純なことなんですが、実はなかなかできないことでもあります。僕自身、これまでいくつもの新規事業を立ち上げて、失敗したものも多くあります。それら「ダメだった事業」にしても、成功に導く方法はあったんじゃないかと思いますよ。ただ、当時はそれができなかった。そういうことでしょうね。
浅井
事業そのものの構造はどうでしょう。「勝てる構造」を立ち上げの時点から作っておければ、立ち上げもスムーズにできるのかなと思うのですが。
酒井
やはり人は第一でしょう。そしてもうひとつ、組織がそうした人たちをしっかりバックアップし続けること。「応援し続ける」と言ってもいいかな。とても単純なことなんですが、実はなかなかできないことでもあります。僕自身、これまでいくつもの新規事業を立ち上げて、失敗したものも多くあります。それら「ダメだった事業」にしても、成功に導く方法はあったんじゃないかと思いますよ。ただ、当時はそれができなかった。そういうことでしょうね。
浅井
事業そのものの構造はどうでしょう。「勝てる構造」を立ち上げの時点から作っておければ、立ち上げもスムーズにできるのかなと思うのですが。
酒井
もちろん、構造的に有利であれば、それに越したことはありません。でも、勝てる構造ができている事業は、その先の果実があまりない。逆に、ハードルの高いところからスタートした事業を成功させれば、大きな果実を数多く得ることができます。どちらを選ぶか、という話です
浅井
ハードルの高さとその数、その先にある果実。そのバランスによって、やるかやらないか、やるならどのようにするかを決めていく、ということですか。
酒井
その時の状況に合わせて、ですね。重要なことは、まず自分たちの商品に合わせて事業を組み立て、明確な方針に沿って進めていくこと。120%の力で、です。それがうまくいったら、次のことをやることです。今から思えば、そうしたステップを踏めば、成功していたかもしれないな…と思う案件はありますね。
また自分たちのスケールを大きく超えて、たとえば実力値の5倍くらいの大きなことをやろうと思ったら、もう単独では無理です。自分たちがマイナーになっても、どこかと組んでやっていく。このどちらかでしょう。
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