【CDP活用】営業成果を左右する顧客ロイヤルティとは?<br>測定方法と向上施策

はじめに:営業現場で見落とされがちな重要指標

営業現場では日々、新規開拓や売上向上に追われがちですが、実は見落とされがちな重要な指標があります。それが「顧客ロイヤルティ」です。
中小企業庁の2024年版中小企業白書によると、小規模事業者が重要と考える経営課題として「販路開拓・マーケティング」「人手不足」「資金繰り」が上位に挙げられています。これらの課題の根本的な解決策として注目されているのが、既存顧客との関係性強化による顧客ロイヤルティの向上です。
出典元:中小企業庁「2024年版小規模企業白書」 https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2024/PDF/shokibo/04sHakusho_part2_chap1_web.pdf
営業活動でよくある悩みとして「既存顧客の離反」「単価の伸び悩み」「紹介営業の不足」が挙げられますが、これらの課題を根本的に解決する鍵こそが顧客ロイヤルティの強化にあります。
顧客ロイヤルティの本質と営業への影響
心理的ロイヤルティと行動的ロイヤルティの2つの側面
顧客ロイヤルティとは、顧客が企業やブランドに対して抱く愛着や忠誠心を指します。これは単なる継続購入とは異なり、心理的ロイヤルティと行動的ロイヤルティの両面から成り立っています。
[画像:顧客ロイヤルティの構成要素図]
心理的ロイヤルティとは、顧客が企業に対して抱く信頼感や愛着といった感情面でのつながりです。
「このメーカーの製品なら安心」「あのブランドの服を着ることが誇らしい」といった感情が該当します。
一方、行動的ロイヤルティとは、企業やブランドへの信頼や愛着が、継続的な購入や他者への推奨といった具体的な行動として現れている状態を指します。
同じブランドの商品を買い続けたり、愛用している商品をSNSに投稿するなどの行動が挙げられます。
営業現場では、この両方を育てることが継続的な関係構築やクロスセルアップセルにもつながります。
真のロイヤルカスタマーとは、心理的ロイヤルティと行動的ロイヤルティの両方が高い顧客のことです。
満足度・エンゲージメントとの明確な違い
顧客満足度は「その時点での体験に対する評価」であり、一時的な感情を表します。しかし、顧客ロイヤルティは「将来にわたる関係継続への意向」を示すため、営業成果への影響がより直接的で長期的です。
実際に「満足度は低いがロイヤルティは高い」「満足度は高いがロイヤルティは低い」といったケースも見られます。長年愛用しているブランドに対して強い愛着がある場合、一時的な不満があって顧客満足度が下がったとしても、ロイヤルティまで失われるとは限りません。
エンゲージメントは「顧客の積極的な関与度」を表しますが、ロイヤルティは「継続的な選択行動」まで含む概念です。営業活動においては、単に関心を持ってもらうだけでなく、継続的に選ばれ続けることが重要となります。
なぜ今、営業現場で顧客ロイヤルティが重要視されるのか

近年、顧客ロイヤルティへの関心が高まっている背景には、少子化による人口減少と市場の成熟化により、新規顧客の獲得コストが年々増加している現状があります。
多くの企業は、将来的な定着が不透明な新規顧客の獲得に多額のコストを投下するよりも、既存顧客との関係性を強化を通じてロイヤルティを向上させることで、収益の安定化および継続的な成長を図る方向へとシフトしています。
デジタル化の進展で顧客の選択肢が増える中、単なる機能や価格での差別化は困難になっています。
そこで重要となるのが、顧客との感情的なつながりを築くことです。
営業活動に与える3つの具体的効果

営業現場でロイヤルティ向上に取り組むことで、以下の効果が期待できます。
- 継続受注率向上と解約防止
- 客単価アップによる売上最大化
- 口コミ・紹介による新規開拓
ロイヤルティの高い顧客は、競合他社からの提案があっても簡単には乗り換えません。営業現場では、価格競争に巻き込まれることなく、安定した利益を確保した状態で主導権を持った営業活動を展開することが可能になります。
ロイヤルカスタマーは、企業自体に対して高い愛着を持つ存在であるため、同一企業が提供するほかのサービスや別ブランドの商品に対しても、購入・利用が期待できます。営業担当者にとって、アップセル・クロスセルの成功率が大幅に向上します。
ロイヤルティの高い顧客は、SNS投稿や口コミといった自発的な情報発信を通じて、企業やブランドを他者に推奨する傾向があります。営業活動でよくある悩みである「新規開拓の困難さ」を、既存顧客からの紹介によって解決できるのです。
営業現場で実践する測定・分析手法

営業現場でロイヤルティを測定し活用するには、以下の手法が効果的です。
- 顧客生涯価値(LTV)算出による優先順位付け
- CES(カスタマーエフォートスコア)による負担度評価
- NRS(ネットリピータースコア)による継続意向測定
- NPS調査による推奨度把握
- RFM分析による行動パターン把握
- チャーンレート(解約率)による離反予測
これらの指標を組み合わせることで、多角的な顧客ロイヤルティの把握が可能になります。
各顧客が将来にわたってもたらす価値を算出し、営業リソースの配分を最適化します。ロイヤルティの高い顧客ほどLTV(顧客生涯価値)が高くなる傾向があり、効率的な営業活動が可能になります。
CES(カスタマーエフォートスコア)
顧客が目的を達成するために要した負担を数値化したものです。数値は低いほうが良いとされており、感情面のロイヤルティを下げるリスクを測ることができます。営業現場では、顧客の手間や負担を軽減することで、ロイヤルティ向上につなげられます。

NRS(ネットリピータースコア)
サービスや商品の継続利用意向を数値化した指標であり、1年後も引き続き利用しているかどうかについて、5段階で評価してもらいます。NPSが低く、NRSが高い場合は、顧客が感情面では企業に対してロイヤルティを抱いているものの、他者への推奨意向が低い状態であると解釈できます。

NPS(ネット・プロモーター・スコア)
「この商品・サービスを友人に勧めたいか」を0-10点で評価してもらう指標です。総務省の独立行政法人評価制度委員会でも、組織評価の新しい指標として注目されています。

出典元:総務省「第43回独立行政法人評価制度委員会議事概要」 https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/dokuritugyousei/02gyokan01_04000455.html
営業現場では、定期的なNPS調査により顧客の推奨意向を数値化し、改善すべき顧客を特定できます。
RFM分析
顧客の購買行動を「最新購入日(Recency)」「購入頻度(Frequency)」「購入金額(Monetary)」の3つの軸で分析する手法です。営業担当者は、各顧客の購買パターンを把握し、ロイヤルティレベルに応じた最適なアプローチを実施できます。

チャーンレート(解約率)
一定期間内に離脱した顧客の割合を示す指標です。営業現場では、離反リスクの高い顧客を事前に把握し、適切なフォローを実施することで、顧客ロイヤルティの維持・向上を図れます。
これらの測定手法を継続的に活用することで、データに基づいた効果的なロイヤルティ向上施策の実施が可能になります。

営業プロセス別の向上施策と活用シーン

顧客ロイヤルティ向上プログラムの進め方
営業現場でロイヤルティ向上を体系的に進めるには、以下のステップが効果的です。
1. 顧客データを収集・整理
既存の営業データ、問い合わせ履歴、購買履歴などを統合し、顧客の全体像を把握します。
2. 顧客ロイヤルティの把握とセグメント分け
NPS調査やLTV分析により現状を把握し、ロイヤルティレベル別に顧客をセグメント化します。
3. 顧客体験の設計
各セグメントに最適化された顧客体験を設計し、感情的なつながりを強化する施策を立案します。
4. 施策の実施
パーソナライズされたアプローチを継続的に実施します。
5. 効果の計測・検証
定期的にロイヤルティ指標を測定し、施策の効果を検証・改善します。
反響営業・既存顧客追客での具体的活用法
反響営業での活用シーン例:
問い合わせ顧客の過去の行動履歴や関心領域を分析し、個別最適化された初回提案を実施。単なる資料送付ではなく、顧客の状況に応じた具体的な改善案を提示することで、初回から信頼関係を構築できます。
既存顧客追客での活用シーン例:
定期的なNPS調査結果を基に、推奨度の低い顧客には改善提案を、高い顧客には紹介依頼を行います。営業活動でよくある悩みである「追客のタイミング」を、データに基づいて最適化できます。
パーソナライズ提案と継続フォロー体制
顧客の業界特性、企業規模、過去の購買履歴を分析し、一人ひとりに最適化された提案を実施します。また、契約後も定期的な効果測定と改善提案により、継続的な価値提供を実現します。
CDP活用による効率的な顧客データ統合管理

散在するデータの統合による顧客全体像把握
営業現場では、SFA、CRM、マーケティングツールなど複数のシステムに顧客データが分散しがちです。CDP(カスタマーデータプラットフォーム)を活用することで、これらのデータを統合し、顧客の全体像を把握できます。
リアルタイム分析と予測機能
CDPにより、顧客の行動変化をリアルタイムで捉え、離反リスクや追加購入の可能性を予測できます。営業担当者は、最適なタイミングでアプローチを実施できるようになります。
自動化による継続的関係維持
顧客の行動や属性に応じた自動的なフォローアップにより、営業担当者の負荷を軽減しながら、継続的な関係維持を実現します。
まとめ – 営業成果向上への実践ポイント

顧客ロイヤルティの向上は、営業活動でよくある悩みである「既存顧客の離反」「単価の伸び悩み」「新規開拓の困難さ」を根本的に解決する鍵となります。
重要なのは、単なる満足度向上ではなく、心理的ロイヤルティと行動的ロイヤルティの両面を高めることです。NPS、NRS、CESなどの多角的な指標により現状を把握し、顧客一人ひとりに最適化されたアプローチを継続的に実施することで、持続的な営業成果の向上を実現できます。
CDPなどのツールを活用することで、より効率的で効果的な顧客ロイヤルティ管理が可能になり、営業組織全体の生産性向上にもつながります。
本記事で使用した専門用語集

本記事で使用している主な専門用語を、どなたにも分かりやすく整理しました。ITやシステムに詳しくない方でも理解できるよう説明しています。
営業・ビジネス基本用語
顧客ロイヤルティ 顧客が企業やブランドに対して抱く愛着や忠誠心。心理的ロイヤルティと行動的ロイヤルティの両面から成り立つ概念
心理的ロイヤルティ 顧客が企業に対して抱く信頼感や愛着といった感情面でのつながり
行動的ロイヤルティ 企業やブランドへの信頼や愛着が、継続的な購入や他者への推奨といった具体的な行動として現れている状態
真のロイヤルカスタマー 心理的ロイヤルティと行動的ロイヤルティの両方が高い顧客
営業活動でよくある悩み 営業現場で頻繁に発生する課題。既存顧客の離反、単価の伸び悩み、新規開拓の困難さなどが代表的
反響営業 Webサイトや広告を見て問い合わせてきた顧客への対応業務。受動的な営業スタイル
追客 一度問い合わせのあった顧客に継続的に連絡を取り、購入・契約意欲を高めていく営業活動
アップセル・クロスセル 既存顧客に対して上位プランへの移行(アップセル)や関連商品の提案(クロスセル)を行う営業手法
ロイヤルカスタマー 企業やブランドに対して高い愛着を持ち、継続的な購入や他者への推奨を行う顧客
パーソナライズ 顧客全員に同じサービスやコンテンツを提供するのではなく、一人一人の属性や購買、行動履歴に基づいて最適な情報を提供する手法、しくみのこと
エンゲージメント 顧客の企業やブランドに対する積極的な関与度や愛着の深さを示す指標
サブスクリプションモデル 商品を売り切りではなく、定期的な利用料金を支払って継続利用するビジネスモデル
測定・分析用語
NPS(ネット・プロモーター・スコア) 「この商品・サービスを友人に勧めたいか」を0-10点で評価してもらう顧客ロイヤルティ測定指標
NRS(ネットリピータースコア) サービスや商品の継続利用意向を数値化した指標。1年後も引き続き利用しているかどうかを5段階で評価
CES(カスタマーエフォートスコア) 顧客が目的を達成するために要した負担を数値化した指標。数値が低いほど良いとされる
顧客生涯価値(LTV) Life Time Valueの略。一人の顧客が企業との取引期間全体を通じてもたらす利益の総額
RFM分析 顧客の購買行動を「最新購入日(Recency)」「購入頻度(Frequency)」「購入金額(Monetary)」の3つの軸で分析する手法
チャーンレート(解約率) 一定期間内に離脱した顧客の割合を示す指標。顧客離反の予測に使用される
継続率分析 顧客がサービスや商品を継続して利用する割合を分析する手法
行動データ 購入頻度、利用期間、問い合わせ内容など、顧客の具体的な行動を記録したデータ
離反リスク 顧客が他社に乗り換えたり、サービス利用を停止したりする可能性
システム・IT用語
SFA(営業支援システム) Sales Force Automationの略。営業プロセスの管理・分析により営業効率を向上させるシステム
CRM(顧客関係管理システム) Customer Relationship Managementの略。顧客情報を一元管理し、長期的な関係構築を支援するシステム
CDP(カスタマーデータプラットフォーム) 既存システムの運用を変更することなく、散在する顧客データを統合し、リアルタイムで一元管理・活用するためのプラットフォーム
マーケティングツール 顧客の行動を自動追跡し、最適なタイミングでアプローチするシステムやソフトウェア
データ統合 複数のシステムに分散している顧客データを一つにまとめること
リアルタイム分析 データが発生した瞬間に即座に分析・処理を行う技術
組織・プロセス用語
顧客ロイヤルティ向上プログラム 顧客のロイヤルティを体系的に向上させるための5ステップの取り組み(データ収集・整理、ロイヤルティ把握、顧客体験設計、施策実施、効果測定)
顧客体験設計 各顧客セグメントに最適化された顧客体験を設計し、感情的なつながりを強化する取り組み
注:この用語集は、記事内で実際に使用されている用語を中心に構成しており、どなたでも理解できるよう平易な言葉で説明しています。記載されている情報は執筆時点のものであり、最新情報は各ツールの公式サイトでご確認ください。