CDPとDMP、顧客データ活用で選ぶべきツールを徹底比較

顧客データの活用は、今やビジネス成長に欠かせない要素となっています。しかし、「CDP」と「DMP」という2つのデータ基盤について、その違いを明確に説明できる方は多くありません。
どちらも顧客データを扱うツールですが、目的も活用方法も大きく異なります。本記事では、CDPとDMPの基本から具体的な違い、そして自社に最適なツールを選ぶための判断軸まで、わかりやすく解説します。
1. CDPとDMPの基本概念

データ活用を始める前に、まずはCDPとDMPそれぞれの役割を正しく理解しましょう。
1-1. CDP(カスタマーデータプラットフォーム)とは
CDP(カスタマーデータプラットフォーム)は、顧客一人ひとりのデータを統合・管理し、顧客体験の向上を目指すシステムです。
CDPが扱う主なデータは以下の通りです。
| データの種類 | 具体例 |
| 基本情報 | 氏名、メールアドレス、電話番号、住所 |
| 購買情報 | 購買履歴、購入金額、購入頻度 |
| 行動情報 | Webサイトでの閲覧履歴、滞在時間、来店履歴 |
| コミュニケーション履歴 | 問い合わせ内容、メール開封率、資料ダウンロード履歴 |
これらのデータを顧客ごとに紐づけて一元管理することで、「この顧客は過去にどんな商品を購入し、どのページをよく見ているか」といった詳細な顧客像を把握できます。
CDPが統合するオンライン・オフラインのタッチポイント
CDPの最大の強みは、オンラインとオフライン、両方の顧客接点(タッチポイント)からデータを収集・統合できる点にあります。
オンラインのタッチポイント
| システム・チャネル | 役割 | CDPに提供するデータ |
| SFA(営業支援システム) | 営業活動の効率化と案件管理を支援 | 商談履歴、提案内容、受注・失注情報、営業担当者のコメント |
| CRM(顧客関係管理システム) | 顧客情報の一元管理と関係構築を支援 | 顧客の基本情報、購買履歴、問い合わせ履歴、顧客ステータス |
| MA(マーケティングオートメーション) | マーケティング活動の自動化を支援 | メール開封率、クリック率、Webサイト訪問履歴、資料ダウンロード履歴 |
| ECサイト | オンラインでの商品販売 | 購入履歴、カート放棄情報、閲覧商品、レビュー投稿 |
オフラインのタッチポイント
| システム・チャネル | 役割 | CDPに提供するデータ |
| 実店舗のPOSシステム | 店舗での販売管理 | 店舗購買履歴、購入商品、購入時間帯、利用店舗 |
| 会員管理システム | 会員情報の管理 | 会員登録情報、ポイント利用履歴、会員ランク、誕生日 |
| カスタマーセンター | 電話・対面での顧客対応 | 問い合わせ内容、クレーム履歴、対応履歴、満足度 |
| イベント・展示会 | リアルでの顧客接点 | 来場履歴、名刺交換情報、アンケート回答 |
たとえば、ある顧客が「先月実店舗で商品Aを購入し(オフライン)、今週Webサイトで関連商品Bのページを閲覧し(オンライン)、昨日カスタマーセンターに使い方を問い合わせた(オフライン)」という一連の行動を、CDPは一つのストーリーとして把握できます。
従来は、店舗での購買情報とWebサイトでの行動履歴が別々のシステムで管理されており、顧客の全体像を掴むことが困難でした。CDPはこれらを統合することで、オンライン・オフラインを問わず、顧客の行動を360度の視点で理解できるようになります。
この統合されたデータを活用することで、営業担当者は商談前に「この顧客は先週実店舗で購入し、Webサイトも頻繁に訪問している優良顧客だ」と把握でき、より的確な提案が可能になります。
CDPの最大の特徴は、個人を特定できる情報を扱い、顧客一人ひとりに最適化されたコミュニケーションを実現する点にあります。
1-2. DMP(データマネジメントプラットフォーム)とは
DMP(データマネジメントプラットフォーム)は、主に広告配信の精度を高めるためのデータ管理基盤です。
DMPが扱うのは、個人を特定しない匿名化されたデータです。たとえば、「30代男性、IT業界勤務、スポーツに興味あり」といった属性情報や行動データを収集し、似た特徴を持つユーザー層(セグメント)を作成します。
このセグメントを活用することで、広告配信の対象を絞り込み、効率的なマーケティング施策を展開できます。新規顧客の獲得を目指す際に、ターゲット層を明確にして広告を配信するといった使い方が一般的です。
1-3. DMPの2つのタイプ(プライベート/パブリック)
DMPには、データの収集元によって2つのタイプが存在します。
| タイプ | 特徴 | 主なデータ |
| プライベートDMP | 自社で保有する顧客データを管理・活用 | 自社サイトの訪問履歴、購買データなど1stパーティデータ |
| パブリックDMP | 外部のデータプロバイダーが提供するデータを活用 | 複数サイトをまたいだ行動データ、幅広い属性情報など3rdパーティデータ |
一般的に「DMP」と言う場合、パブリックDMPを指すことが多くなっています。プライベートDMPは自社データを活用するため、CDPに近い性質を持つ場合もあります。
2. CDPとDMPを分ける5つのポイント

ここからは、CDPとDMPの違いを5つの視点から詳しく比較していきます。
2-1. データの種類と範囲
CDPとDMPでは、扱うデータの種類が根本的に異なります。
データは、その収集元によって以下のように分類されます。
| データ分類 | 説明 | 具体例 |
| ゼロパーティデータ | 顧客が自ら進んで企業に提供するデータ | アンケート回答、購入意向、好みの設定 |
| 1stパーティデータ | 自社で直接収集した顧客データ | 購買履歴、会員情報、問い合わせ内容 |
| 2ndパーティデータ | 信頼できるパートナー企業から提供されるデータ | 提携企業の顧客データ |
| 3rdパーティデータ | 外部のデータプロバイダーが収集・販売する匿名データ | Cookie情報、Web行動履歴 |
CDPは主にゼロパーティデータと1stパーティデータを扱い、自社の顧客に関する詳細な情報を蓄積します。SFA、CRM、MAといったオンラインシステムだけでなく、実店舗のPOSシステムやカスタマーセンターの対応履歴といったオフラインのデータも統合します。
一方、DMP(特にパブリックDMP)は3rdパーティデータを中心に、幅広いユーザー層の行動データを活用します。
この違いにより、CDPは「既存顧客を深く知る」ことに、DMPは「潜在顧客を幅広く捉える」ことに適しています。
2-2. 目的とゴール
両者が目指すゴールも明確に異なります。
| ツール | 主な目的 | 実現すること |
| CDP | 既存顧客との関係深化、顧客体験(CX)向上 | 顧客一人ひとりの状況に合わせたメール配信、購買履歴に基づく商品提案 |
| DMP | 効率的な広告配信、新規顧客の獲得 | 適切なターゲット層への広告配信、広告費用対効果の向上 |
CDPは顧客との長期的な関係構築を重視し、リピート率の向上や顧客満足度の向上を目指します。対してDMPは、短期的な広告効果の最大化と新規顧客の効率的な獲得に焦点を当てています。
2-3. 個人情報の管理方法
個人情報の取り扱いにも明確な違いがあります。
| ツール | 扱う情報 | 管理上の特徴 |
| CDP | 個人を特定できる情報(氏名、メールアドレスなど) | 個人情報保護法に基づいた厳格な管理が必要 |
| DMP | 匿名化されたデータ(属性、興味関心など) | 「どの個人か」ではなく「どんな層か」を管理 |
CDPは個人情報を扱うため、より高度なセキュリティ対策とコンプライアンス対応が求められます。顧客の同意取得や適切なデータ管理体制の構築が不可欠です。
一方、DMPは匿名化されたデータを扱うため、個人情報保護法上の制約は比較的緩やかですが、Cookie規制などプライバシー保護の観点からの配慮が必要になっています。
2-4. データ保存期間
データをどれくらいの期間保持するかも異なります。
| ツール | 保存期間 | 理由 |
| CDP | 長期保存 | 顧客との長期的な関係構築のため、過去の履歴を蓄積 |
| DMP | 短期保存 | 広告配信という短期施策に活用、Cookie規制の影響も受ける |
CDPは顧客理解を深めるために長期的なデータ蓄積を行います。数年前の購買履歴や問い合わせ内容も、顧客との関係構築に役立つ貴重な情報となります。
一方、DMPは比較的短期間でデータを更新していきます。広告配信のトレンドは変化が早く、また後述するCookie規制の影響もあり、データの鮮度が重視されます。
2-5. 利用部署と活用場面
活用する部署や具体的な場面も大きく異なります。
| ツール | 主な利用部署 | 活用場面 |
| CDP | 営業部門、カスタマーサポート部門、店舗スタッフ | 顧客の過去の問い合わせ内容や購買履歴を参照した提案・対応 |
| DMP | マーケティング部門、広告運用チーム | 広告配信の最適化、新規顧客獲得キャンペーン設計 |
CDPは顧客と直接接する部署で活用されます。営業担当者が商談前に顧客の購買履歴を確認したり、カスタマーサポートが過去の問い合わせ内容を参照したり、店舗スタッフが来店した顧客のオンライン行動を把握したりといった使い方が典型的です。
DMPは広告・マーケティング施策を担う部署で活用されます。Web広告の配信先を最適化したり、新商品のプロモーション対象を絞り込んだりする際に力を発揮します。
2-6. CDPとDMPの違いを比較表で理解する
ここまでの違いを総合的にまとめると、以下のようになります。
| 比較項目 | CDP | DMP |
| 扱うデータ | ゼロ/1stパーティデータ(オンライン・オフライン両方) | 3rdパーティデータ中心(主にオンライン) |
| 目的 | 顧客体験向上、関係深化 | 広告配信最適化、新規獲得 |
| 個人情報 | 個人を特定できる情報を扱う | 匿名化されたデータ |
| 保存期間 | 長期保存 | 短期保存 |
| 利用部署 | 営業、カスタマーサポート、店舗 | マーケティング、広告運用 |
この表からわかるように、CDPとDMPは目的も活用方法も大きく異なるツールです。どちらが優れているかではなく、自社の課題や目的に応じて選択することが重要です。
3. Cookie規制時代における選択のポイント

近年、プライバシー保護の観点から、Cookie規制が世界的に強化されています。この流れは、CDPとDMPの選択にも大きな影響を与えています。
3-1. プライバシー保護強化の影響
日本でも2023年6月に改正電気通信事業法が施行され、Cookieなどの外部送信に関する規律が強化されました。
出典元:総務省「外部送信規律」 https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/d_syohi/gaibusoushin_kiritsu.html
この規制により、3rdパーティCookieの利用が制限される流れが加速しています。主要なWebブラウザでも、3rdパーティCookieのサポート終了が段階的に進んでおり、従来のDMP活用には課題が生じています。
一方、自社で直接収集する1stパーティデータを活用するCDPは、こうした規制の影響を受けにくいという特徴があります。顧客の同意を得た上でデータを収集・活用するため、プライバシー保護の観点からも適切な手法と言えます。
特に、実店舗での購買情報やカスタマーセンターでの対応履歴といったオフラインデータは、Cookie規制の影響を全く受けません。オンラインとオフラインのデータを統合できるCDPは、今後ますます重要性を増していくでしょう。
3-2. CDPとDMP。自社に最適なツールを見極める判断軸
では、自社にはCDPとDMPのどちらが適しているのでしょうか。以下の判断軸を参考にしてください。
| 選択基準 | CDPが適している | DMPが適している |
| 主な目的 | 既存顧客との関係を深め、リピート率を高めたい | 新規顧客の獲得に注力したい |
| 施策の方向性 | 顧客一人ひとりに合わせた提案を行いたい | Web広告の配信効率を高めたい |
| 活用部署 | 営業やカスタマーサポート、店舗の質を向上させたい | 幅広いターゲット層にリーチしたい |
| 時間軸 | 長期的な顧客データを蓄積・活用したい | 短期的なキャンペーンを展開したい |
| データ環境 | オンライン・オフライン両方の顧客接点がある | 主にオンラインでの顧客接点 |
ただし、プライバシー保護の流れを考えると、長期的には自社の顧客データを活用するCDPの重要性が高まっていくと考えられます。
経済産業省が発行する「中堅・中小企業等向けDX推進の手引き2025」でも、顧客データの活用がDX推進の重要な要素として位置づけられています。
出典元:経済産業省「中堅・中小企業等向けDX推進の手引き2025」 https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dx-chukenchushotebiki/dx-chukenchushotebiki_2025.pdf
顧客データを適切に管理・活用することは、単なるマーケティング施策にとどまらず、企業全体のDX推進における基盤となります。
4. まとめ
CDPとDMPは、どちらも顧客データを活用するツールですが、その目的と活用方法は大きく異なります。
CDPは自社の顧客データを統合し、一人ひとりに最適化された体験を提供するためのツールです。SFA、CRM、MAといったオンラインシステムだけでなく、実店舗のPOSシステム、会員管理システム、カスタマーセンターの対応履歴といったオフラインのデータも統合することで、顧客の全体像を360度の視点で把握できます。既存顧客との関係を深め、長期的な売上向上を目指す企業に適しています。
一方、DMPは匿名化されたデータを活用し、効率的な広告配信を実現します。新規顧客の獲得を重視する企業に有効ですが、Cookie規制の影響を受けやすいという課題があります。
Cookie規制が強化される中、自社で直接収集した顧客データを活用するCDPの重要性は今後さらに高まるでしょう。自社の課題や目的に合わせて、最適なツールを選択してください。
本記事で使用した専門用語集
ITやシステムに詳しくない方でも本記事をご理解いただけるように本記事で使用している主な専門用語を、どなたにも分かりやすく整理しました。ぜひご確認ください。
データ基盤・システム用語
CDP(カスタマーデータプラットフォーム) 顧客一人ひとりのデータを統合・管理するシステム。オンライン・オフラインの様々な顧客接点からデータを収集し、顧客の全体像を把握することで、最適なコミュニケーションを実現する
DMP(データマネジメントプラットフォーム) 主に広告配信の精度を高めるためのデータ管理基盤。個人を特定しない匿名化されたデータを扱い、効率的なマーケティング施策を支援する
SFA(営業支援システム) 営業活動の効率化と案件管理を支援するシステム。商談履歴、提案内容、受注・失注情報などを管理し、営業プロセスの可視化と最適化を実現する
CRM(顧客関係管理システム) 顧客情報の一元管理と関係構築を支援するシステム。顧客の基本情報、購買履歴、問い合わせ履歴などを管理し、顧客との長期的な関係構築を目指す
MA(マーケティングオートメーション) マーケティング活動の自動化を支援するシステム。メール配信、Webサイト訪問履歴の追跡、リード育成などを自動化し、効率的なマーケティング活動を実現する
POSシステム 店舗での販売管理を行うシステム。商品の販売情報、在庫情報、顧客の購買履歴などを記録し、店舗運営の効率化を支援する
データ分類用語
ゼロパーティデータ 顧客が自ら進んで企業に提供するデータ。アンケート回答、購入意向、好みの設定など、顧客の明確な意思によって提供される情報
1stパーティデータ(ファーストパーティデータ) 自社で直接収集した顧客データ。購買履歴、会員情報、問い合わせ内容など、自社の顧客接点から得られる情報
2ndパーティデータ(セカンドパーティデータ) 信頼できるパートナー企業から提供されるデータ。提携企業が収集した顧客データを共有することで得られる情報
3rdパーティデータ(サードパーティデータ) 外部のデータプロバイダーが収集・販売する匿名データ。Cookie情報やWeb行動履歴など、複数のサイトをまたいで収集される情報
マーケティング・顧客管理用語
タッチポイント 企業と顧客が接する接点のこと。Webサイト、実店舗、カスタマーセンター、イベントなど、顧客が企業と関わるあらゆる場面を指す
顧客体験(CX:カスタマーエクスペリエンス) 顧客が商品やサービスを通じて得る体験全体のこと。購入前の情報収集から購入後のサポートまで、すべての接点における体験を含む
セグメント 共通の特徴を持つ顧客層のこと。年齢、性別、興味関心、購買行動などの基準で顧客をグループ分けしたもの
リピート率 一度購入した顧客が再度購入する割合。顧客との関係性の深さや顧客満足度を測る重要な指標
パーソナライズ 顧客一人ひとりの属性や行動履歴に基づいて、最適な情報やサービスを提供する手法。個別最適化とも呼ばれる
プライバシー・規制関連用語
Cookie(クッキー) Webサイトが訪問者のブラウザに保存する小さなデータファイル。ユーザーの行動履歴や設定情報を記録し、次回訪問時に活用される
3rdパーティCookie(サードパーティクッキー) 訪問しているサイトとは異なる第三者のドメインが発行するCookie。広告配信やアクセス解析に利用されるが、プライバシー保護の観点から規制が強化されている
Cookie規制 個人のプライバシー保護を目的とした、Cookieの利用に関する規制。特に3rdパーティCookieの利用制限が世界的に進んでいる
個人情報保護法 個人情報の適切な取り扱いを定めた法律。企業が個人情報を収集・利用する際のルールや、個人の権利を保護するための規定を含む
改正電気通信事業法 2023年6月に施行された法改正。Cookieなどの外部送信に関する規律が強化され、利用者への通知や同意取得が義務化された
ビジネス・DX用語
DX(デジタルトランスフォーメーション) デジタル技術を活用してビジネスモデルや業務プロセスを変革し、競争優位性を確立すること。単なるIT化ではなく、企業全体の変革を指す
広告費用対効果 広告に投資した費用に対して得られた効果の割合。投資した広告費に対してどれだけの売上や成果が得られたかを示す指標
顧客満足度 顧客が商品やサービスに対してどの程度満足しているかを示す指標。顧客との長期的な関係構築において重要な要素
オンライン・オフライン統合 インターネット上の顧客接点(オンライン)と実店舗などのリアルな顧客接点(オフライン)のデータを統合し、一貫した顧客体験を提供すること
360度の視点 顧客のあらゆる行動や情報を、様々な角度から総合的に把握すること。オンライン・オフラインを問わず、顧客の全体像を理解するアプローチ
注:この用語集は、記事内で実際に使用されている用語を中心に構成しており、どなたでも理解できるよう平易な言葉で説明しています。記載されている情報は執筆時点のものであり、最新情報はインターネットや各ツールの公式サイトでご確認ください。



























