データクラウド基盤で実現するAX推進成功事例

この記事で分かること
- 製造業における統合データ基盤の構築プロセスとAX推進におけるポイント
- データドリブン文化を組織に浸透させるための具体的な取り組み手法
- マルチクラウド環境でのデータ連携における課題と解決策
- CDP/DWH導入による業務効率化と意思決定の高速化の実現方法
- データ活用基盤の運用体制構築とコスト最適化のベストプラクティス
AIトランスフォーメーション(AX)の推進において、全社横断したデータ活用基盤の整備は避けて通れない課題となっています。特に製造業においては、膨大な製品データやサプライチェーンにおける各取引先との受発注データ、基幹システムや生産設備から生成される膨大なデータなど社内に分散する各種データを統合し、経営判断や業務改善に活かすことが競争力の源泉となっています。
本記事では、複数の大手企業における統合データ基盤の構築事例を通じて、CDP(カスタマーデータプラットフォーム)やDWH(データウェアハウス)の導入から運用までの実践的な知見をご紹介します。
データ統合基盤構築の背景と課題
多くの企業では、長年にわたって会社の歴史と共に運用されてきたレガシーな基幹システムや部門ごとの業務システムが乱立し、データが分散している状況が続いています。
特に製造業では、本社だけでなく全国、海外に散らばる生産拠点、海外支社、本社内でも経理システム、生産管理システム、調達システム、営業管理システムやマーケティング部署で使っている分析ツールやMAなど複数のシステムにデータが点在し、部門をまたいだデータ分析が非常に困難な状態にあります。
変革の波に対応するためには3つの課題への対処が必要
製造業の中でも日本の基幹産業の1つとなる自動車業界では、大きな変革期を迎えています。
電動化やコネクテッド技術の進展により、ビジネスモデルの根本的な変革が求められているのです。
更にそれらの自動車産業の裾野を支える自動車部品メーカーでは、以下の3つの課題が確認されています。
第一に、今や自動車メーカー各社とも国内のサプライヤーのみならず全世界から調達・仕入を行っています。常に条件とニーズに合致したサプライヤーを探しており、顧客ニーズへの臨機応変な対応の遅れが命取りになります。
製品ライフサイクル全体で脱排出ガス等に関しての管理体制など、厳格化するメーカー側の要求に応えるためには、サプライチェーン全体のデータを統合的に把握する必要があります。
第二に、製造過程におけるタイムリーな正常・異常判断を実現するため、リアルタイムでデータを収集・分析し、データドリブンな意思決定を支援する仕組みが不可欠となります。
第三に、革新的で持続可能な仕組みを取り入れることが求められています。
従来のデジタル化や業務効率化の延長線上にない、抜本的な突破口を見出すためには、従来の仕組みや体制を根本から見直し、クラウド技術やAIを活用した新しいアプローチが求められています。
データ分散による具体的な問題
ある大手製造業企業では、基幹システムにデータが集約されていたものの、セキュリティやアクセス権限の問題から、現場の担当者が簡単にデータを参照できない状況となっていました。
また、担当者に依存していた独自の計算モデルや属人的な算出ロジックにより、部門をまたいだ共有ができず、全社的な業務可視化が実現できていないという課題を抱えていました。
さらに、複数のクラウド基盤やオンプレミスシステムが混在するマルチクラウド環境では、データ連携の複雑さが増し、想定外のコスト発生リスクも顕在化していました。
また、別の企業では、異なるクラウドサービス間でのデータ転送時に、データ圧縮・解凍の仕様差により、想定以上の通信コストに悩まされていたのです。

統合データ基盤の構築アプローチ
これらの課題を解決するため、各企業では統合データ基盤の構築に着手することとしました。
結論から言うと、それらの取り組みに成功した企業に共通するのは、単なるシステム基盤構築といった技術導入だけではなく、企業全体の組織文化の変革をも見据えたアプローチができたか否かということでした。
データクラウド基盤という選択
ある企業では、分断されたデータを統合し、マーケティングや営業現場の誰もがAIやBIツールを使える環境を整えるため、クラウドベースのデータウェアハウスを中核とした統合データプラットフォームを構築しました。
具体的には、全社に点在するデータをクラウドDWHに統合し、全部署でデータ活用できる環境を実現すること、そしてデータドリブンな意思決定を行えるようにすること、つまり、データをベースにした戦略設計を行い、意思決定する文化を社内に浸透させ醸成させることを目指した取り組みとなります。
まさにデータを中心に据えた経営を組織として醸成し社内にデータ活用を浸透させていったのです。
3層データレイヤーアーキテクチャ
DWHでは3層のデータレイヤーアーキテクチャを採用しました。
第一層はデータ蓄積層で、ローデータを保存し貯めるデータレイク的なの役割を果たします。
第二層はデータ統合層で、中間テーブルとしてデータの加工・整形を行います。
第三層はデータマート層で、分析用データとして各部門に提供されるとともに、ユーザーが自由に試行錯誤できるワークスペース環境も提供されます。
このシンプルな設計により、運用コストを下げ、少人数体制での維持管理が可能になります。
データ変換ツールの活用
データの加工・整形には、データ変換に特化したツールが活用されています。シンプルなSQL文による操作、データモデル依存関係の可視化、データ変換処理のバージョン管理、テストが可能なツールを導入することで、開発環境から本番環境までのパイプラインを効率的に管理しています。

データドリブン文化の醸成
技術基盤の整備だけでは、一部の情報システム部やデータサイエンス関連部署のみでの活用に終わり、データ活用は全社に浸透しません。実際にデータを使う場面の多いマーケティングや営業部門など現場を中心として組織全体にデータドリブンな意思決定の文化を根付かせることが、成功の鍵となるのです。
データ活用推進者(旗振り役)の育成
ある企業では組織文化醸成をどのように進めていくかを議論し、各部署でデータ活用を推進する旗振り役を置くこととし、現場の実務課題に対し、実践的アウトプットを通してデジタルスキルを高める場を設定しました。この取り組みは、各部門から選ばれたデータ活用推進者が、自部門でのデータ活用推進の担い手として育成され、成長していくことを目指しています。
スキルアップから知識の習得、実践的なワークショップによる実務スキルのキャッチアップに至るまで、データの理解と整備、データを自在に活用できる知識習得、そして基盤自体のブラッシュアップを同時に進めることで、組織内でのデータ活用文化の醸成や雰囲気を作り出しています。
この取り組みにより、経理・調達・生産の各部が自分たちの方針としてデータ活用を位置づけるような、データを使って考えるという文化が組織に広がっていくのです。ポイントは開発者視点だけでなく、実際に現場でデータを使う層の希望や意見を耳を傾け採り入れることが長い目で見て重要なのです。
人材育成とスキルセット定義
また、別の企業では、DX人材のスキルセットを明確に定義するなどして、リスキリングやM&Aなどにより数万人規模のDX人材を確保するといった動きも見られます。
伴走型パートナーとの協業
データクラウド基盤構築はIT部門にも大きなカロリーを消費します。そのため信頼できるパートナーと伴走することが成功の鍵と言えるでしょう。
総じてうまく行っている企業ではパートナー選びの際の観点として、
1,新しい技術への理解
2,対応スピードと柔軟性
3,導入後の運用定着を見据えた設計・支援
の3つが挙げられます。
マルチクラウド環境での運用とコスト最適化
多くの企業では、業務領域や地域ごとに異なるクラウド基盤を採用するマルチクラウド戦略を取っています。この環境下でのデータ連携とコスト管理は、重要な課題となっています。
マルチクラウド環境の課題
グローバル企業中心にAI活用やデータ利活用が広がる中、異なるクラウド間の安全かつ効率的なデータ連携を実現する仕組みと統制が求められています。
ある企業では、異なるクラウドサービス間でのデータ連携検証を進めていた際、想定外のコストが発生しました。
原因は、一方のクラウドサービスで高圧縮されていたデータが、他方のクラウドサービスの仕様により圧縮解凍された状態で転送され、想定の数十倍の通信コストがかかっていたことでした。
テーブル容量を事前に把握していたにもかかわらず、クラウドサービス間の仕様差を十分に理解していなかったことが要因となります。
再発防止策の実装
これらの事故は以下で対策を取ることが可能です。
第一に、早期発見の仕組みです。
コスト監視ダッシュボードを構築し、日次でコストの異常値を検知できる体制を整えました。
これにより、想定外のコスト発生を早期に察知し、迅速な対応が可能になります。
第二に、未然防止の仕組みです。
クラウドDWHの新機能を活用し、非効率なクエリやテーブルのフルスキャンなどを検出し、自動アラートを発する仕組みを導入しました。将来的には、クエリ実行前に処理時間や転送量を予測し、実行自体を制御できる機能の実現に期待しています。
第三に、連携統制のルール整備です。想定外のコスト発生を防ぐには、技術的な監視や制御だけでなく、利用部門によるクラウド間連携の検討段階から、IT部門が介在する体制やルールが必要です。
調査・検証を一手に担い、的確な注意喚起やガイドラインを提示することで、想定外のコスト発生を防ぐことが可能となります。
アクセス管理とセキュリティ
データ基盤の運用において、セキュリティとアクセス管理は極めて重要です。ある企業では、社内の認証基盤とシングルサインオン連携することで、ユーザー管理の効率化を実現しています。
また、機能ロールとアクセスロールを組み合わせたアプローチにより、権限管理の効率化を図っています。
データセキュリティについては、スキーマ単位のアクセス制御を中心としつつ、一部にテーブル単位の制御やダイナミックデータマスキングを導入しています。

導入効果と今後の展望
統合データ基盤の導入により、多くの企業が具体的な成果を上げています。
具体的な導入効果
ある製造業では、基盤への統合により、安全に、安心してデータをオープンにできる環境が整いました。
「この環境なら公開しても大丈夫」と言えるようになったことで、担当者に閉じていた環境がオープンとなり、担当者だけに属人化していたい独自で組み立てられた数式や属人的な算出ロジックが可視化され、部門をまたいだ共有が可能になりました。
別の企業では、総ユーザー数が数千人規模に達し、国内外の関連会社を含めた数十社がデータ活用基盤を利用しています。取り扱いデータ量は数百テラバイト、月間クエリ数は数十万回から百万回を超える規模となり、全社的なデータ活用が定着しています。
利用事例としては、会計業務の可視化、勤怠ダッシュボードによる全社のマネジメント支援、製造ラインの異常検出レポート、故障部品検知・分析アプリケーションなど、多岐にわたる業務領域でデータ活用が想定されています。
単なる効率化ではなく、データを資産に変えていく活動に国内の企業もようやく追いついてきたのではないでしょうか
今後の展開計画
短期的には、グローバル拠点も含めたデータ共有の仕組みを整える運用設計の完了、基幹システムやCSV・Excelのバッチ連携に加えた設備データやIoTデータの準リアルタイム連携、インフラストラクチャ・アズ・コードによる基盤のコード化、ダイナミックデータマスキングの運用整備などが計画されています。
中長期的には、統合されたデータを活かしたAI活用が重要なテーマとなります。クラウドDWHのAI機能を使い、自然言語でデータにアクセスできる環境の整備、データ探索やモデル生成の効率化、利用者がデータに質問すれば自動でレポートや可視化が生成される仕組みの実現、そして社内のデータに基づいた業務特化型のAIエージェントの構築などが視野に入っています。
成功の鍵となる要素
複数の成功事例から、データ基盤構築の成功には以下の要素が重要であることが分かります。
まず、誰と走るかです。技術だけでは変革は起きず、信頼できるパートナーと伴走しながら、一歩ずつ確実に進めることが重要です。
次に、最新技術との接点を持ち続けることです。クラウドDWHは機能アップデートの速さが特徴であり、AI関連の機能が次々と登場しています。
プラットフォームとつながっているだけで、世界の技術トレンドをキャッチアップできる環境を活用することで、単なるデータベースではなく、技術成長に追随できるプラットフォームとして活用できます。
そして、標準化と仲間づくりです。技術をいかに自社に合った形で標準化し、仲間に広げられるかが、組織全体のデータドリブンな意思決定や文化醸成につながります。
まとめ
統合データ基盤の構築は、単なる技術導入プロジェクトではなく、組織文化の醸成が現場での中長期的な運用を伴う取り組みです。製造業や自動車業界の先進企業の事例から、以下のポイントが明らかになりました。
第一に、ベストプラクティスに基づいたシンプルなアーキテクチャを採用することで、運用コストを抑えながら段階的な拡張が可能になります。
3層データレイヤーアーキテクチャやデータ変換ツールの活用により、少人数体制でも維持管理できる基盤を構築できます。
第二に、データドリブン文化の醸成には、人材育成と実践的な取り組みが不可欠です。
データ活用推進者の設置や公式トレーニングの受講推奨、伴走型パートナーとの協業により、組織全体にデータを使って考える文化を根付かせることができます。
第三に、マルチクラウド環境では、コスト管理と統制ルールの整備が重要です。
早期発見、未然防止、連携統制の3つの観点から対策を講じることで、想定外のコスト発生を防ぎながら、安全かつ柔軟なデータ活用が実現できます。
特定のクラウド基盤に統一・制限するのではなく、多様な選択肢を前提に、ユースケースごとに最適な基盤を判断していく方針を継続することで、ビジネス環境の変化に柔軟に対応できる体制を構築できます。
データ活用基盤の構築を検討されている企業の皆様にとって、本記事でご紹介した事例が、自社のDX推進の一助となれば幸いです。
【関連情報】
データ活用基盤の構築やCDP導入をご検討の方は、以下の資料もぜひご参照ください。
CDP製品の詳細情報: https://cx.geniee.co.jp/product/cdp/
AI基盤比較ホワイトペーパー: https://geniee.co.jp/media/ebook/ai-platform-hikaku/
CDP活用ガイド: https://geniee.co.jp/media/ebook/gl-cdp-ebook001/
データ活用基盤の構築やCDP導入に関するご相談、資料請求は、上記リンクよりお気軽にお問い合わせください。貴社のビジネス課題に合わせた最適なソリューションをご提案いたします。



























