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Googleやリクルートの営業という看板なんて必要なし。 売れる営業マンがお客様に商品を売らない理由【後編】

更新日:2024.08.06 / 営業マンへのインタビュー
Googleやリクルートの営業という看板なんて必要なし。 売れる営業マンがお客様に商品を売らない理由【後編】

小川 淳(おがわ・じゅん)

Kaizen Platform, Inc.
Head of Global Business
1995年に同志社大学を卒業後、リクルートでモバイルASP事業の立ち上げ、じゃらんでのエリアプロデューサーを担当。その後、グーグルで広告営業部門の立ち上げ、業界営業部門の立ち上げから責任者、広告代理店事業の責任者を歴任。同社では、世界中でも限られたマネージャーにのみ与えられる“Great Manager Award”を当時日本で唯一受賞。2014年2月よりKaizen Platform に参画し、国内事業責任者を経て、現在グローバル事業の責任者を務める。
https://kaizenplatform.com/

後編「アドワーズは見ない」と決めたらGoogle社内の評価がどんどん上がった

Kaizen Platformで日本のカントリーマネージャーを経て現在グローバルビジネスの責任者を務める小川淳氏。リクルート時代から社内外に名を知られた同氏がパワフルに語る「営業」という仕事、そしてその極意とは?

人間にしかできないことは何か

浅井

ネットの普及で「人の出番が少なくなった」というお話がありましたが、そうした傾向は続くとお考えですか?

小川

まだまだ加速しますね。グーグルのシステムを見ていると、どんどん人が手を動かす部分が少なくなっていってます。以前は人の手でやっていたアドワーズのキーワード設定なども、すでに自動化されています。お客様のウェブサイトそのものをシステムが勝手に作るようになってきている。自動化、機械化、効率化がどんどん進んでいます。僕もアドワーズの管理画面を3ヵ月間いじってましたけど、「この作業はこの先なくなるな」と思って、触るのをやめた(笑)。こんなこと、そのうち機械が勝手にやるようになるだろうと。

浅井

そうなると、人が何をやるか、何ができるかということですよね、課題になるのは。

小川

そう、人間しかできないことって何だろう…と考えると、もうお客様との関係性しかないんです。だからお客様としっかり向き合って、がっちり話して、関係性を強固にしていく。お客様の中での僕の存在感を高めていくんです。そうすると、面白いことが起こる。

浅井

面白いこととは?

小川

グーグルの一般広告は、もうほとんどが自動化されているので、営業の出番はあまりないんです。でも新商品が出るときには開発の人間がお客様の前に出ていくことになる。ただエンジニアはお客様と接触することがあまりないので、営業を連れていけ、ってことになる。ところがグーグルはたくさん営業マンがいるものの、みんな管理画面をいじってばかりいるから、僕のところに話が来る。

浅井

一緒にお客様のところに行ってくれ、と?

小川

で、お客様のところに行って、いろいろな話をしていく中で、お客様からたとえば「カード会社と交渉してほしい」なんて話になれば、僕が声をかけて間をつなぐわけです。そうするとお客様から見たら僕は「広告以外も動かせる人」ってなるし、社内の人間から見たら「小川さんに声をかければ、どこにでもつないでくれる」ってことになる。つまり、僕が管理画面から離れれば離れるほど、僕自身の価値は上がっていくわけです(笑)。

「人柄」で勝負する時代が来る

浅井

そうか、機械でできるところに手を出す必要はない。人間にしかできないところにこそ価値があると。

小川

5年、10年のスパンで考えていくと、人間にしかできない部分と、機械ならではの部分というのをミックスしたセールススタイルが勝ちパターンになるかもしれません。ここ2〜3年はどうかわかりませんが、少なくとも5年先10年先には「人柄」で勝負する時代が来るんじゃないかと思ってます。

浅井

人間性が評価される時代が来る、ということですね。

小川

そもそもデジタルマーケティングの提案というのは、どこにオーダーを出しても、出てくるものに大した違いはないんです。大して変わらないんですよ。そうなると「ここに発注しよう」って決断の理由になるのは、担当者の人柄だと思うんです。その時にモノを言うのは、今までどれだけの人々と、どういう人間関係を築いてこられたかってことに尽きる。グーグルにいた頃から、それは感じていました。お客様から信頼されて「お前にだったら任せよう」と言われる。それが勝ちパターンになるだろうと思っています。だから「お客様からいかに信頼されるか」が分岐点になってきます。

浅井

となると、どうやって信頼を得るかという部分が課題になってきますが。

小川

基礎になるのは「お客様の役に立とう」というマインドでしょうね。僕はリクルート時代にこのマインドを学びましたが、本当に役に立ったと思っています。お客様の側に立って、自分が何をすればお客様の役に立つか、利益になるか。そう考えて動いていると、やがてお客様の僕への見方が「リクルートの小川さん」から、ただの「小川さん」になる。

浅井

会社の看板が外れるんですね。個人として見られるようになる。

小川

信頼度が増すと、そうなっていくんです。転職してからは、いっそう「いかに信頼されるか」を考えて、動くようになりました。たとえば何らかの提案をするにしても、お客様にとって価値のある提案をすること。自分の事情で提案していてはダメなんです。そんなことでは、お客様から頼りにされる気がしません。そうじゃなくて、お客様は自分に何を求めているのかを考える。さらにお客様の役に立って、なおかつ自分も楽しくなるにはどうすればいいかを考える。で、動く。その繰り返しです。

浅井

そのスタイルは変わっていないのですね。

小川

ほとんど変わっていません。でも、それは自分の中で「棚卸し」というか、仕事に対する姿勢を見つめ直して整理してみる、という過程があったからでしょうね。年齢が上がるとそのハードルも高くなってきますが、このやり方は僕自身に合っているし、また営業のあり方として間違っていないと確信しています。

営業の極意とは

浅井

これまでの小川さんの経験から、営業の極意を挙げるとしたら何でしょうか?

小川

3つあります。まず第一にリスト。これは前にもお話しした「どこの誰にどのように売るのか」というターゲットを明確にするということです。第二に「売らない」ということ。営業を「売り込み」だと思ってる人は多いですが、肝心なのはそれがお客様の役に立つかどうかです。役に立たないものを売ったって、あとでクレームかキャンセルになるのが目に見えている。これは効率的ではありません。

浅井

営業マンとしては、数字が上がっていないと押し込みたくなることもありますが…。

小川

ありがちですよね。でもお客様の役に立たないものを押し込んだら、それはもう営業じゃなくて押し売り(笑)。それはまずい。よく感じることですが、なぜみんな「売らない」という選択肢を持たないのか。僕なんか、明確な線引きがありますよ。もちろんお客様から「やりたい」と言われて断る理由はまずないけれど、長期的に良い関係を築けるかどうかを考えたら、場合によっては「つきあわない」という選択もありうるはずです。そしてこの「長期にわたる良い関係」を築くことが、第三の極意です。

浅井

ただ、営業マンとしての課題は「どうやってそうした関係を構築するか」というところだと思います。

小川

それにはまず「良い関係」の定義を知ることでしょう。良い関係というのはお客様だけじゃなくて、営業マン自身も会社で褒められるようなものでないといけない。単にお客様の要求をのむことではありません。たとえばお客様が値下げを求めてくる。応じてもいいんですが、その時は必ず「お土産」をいただく。値下げしっぱなしではダメなんです。そうじゃないと、気持ち良く仕事をすることができないでしょう? だから値下げはしても、お土産をいただく。自分が会社に持ち帰って、褒められるような。

浅井

そうした良い関係が築けないときは「断る」という選択肢も出てくるわけですね。

小川

10年、20年と営業をやっていれば、誰でも一度や二度は断った経験があるはずですよ。逆にそれがまったくないっていうのは、営業マンとしてどうなんだ? と思いますね。少なくとも僕の中ではそうです。お客様の立場に立って、長いお付き合いを考えたときに、こちらが楽しくないときもある。そのときはちゃんとそれをお客様に伝えて、お土産をいただかないと、僕も嬉しくありません。そんな楽しくないことばかりでは、良い関係を長く続けてはいけませんよ。双方にメリットがあって、双方が嬉しくなくては。どちらか一方ばかりが辛いのは、関係性としてダメでしょう。

浅井

そうした心得のある営業マンは、どうすれば育てられるのでしょうか?

小川

育てるというよりも、本人の資質ではないでしょうか。ですから教育というより採用です、大切なのは。それが育つかどうかは本人次第ですよ。僕自身、育つ人にはヒントはあげられるし、アドバイスもできる。でも僕は育てるプロではないし、育て方を習ったこともないし、そもそも育てるつもりがない(笑)。ともあれ人を育てるというのは、そんなに簡単なもんじゃないと僕は思ってますね。

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