リクルートでトップセールスを出し続けた営業マンが教える 「接点」から「接線」、「接面」へと広げる関係づくり【後編】
山本 隆志(やまもと・たかし)
Kaizen Platform, Inc.
Head of Global Business
人材領域を中心としたインターネットサービスを運営する(株)ビズリーチ総合企画部部長。1977年生まれ。2001年、リクルート(現・リクルートホールディングス)入社。人材採用を扱うHRカンパニーでセールス、さらにマネージャーを務める。2014年退社、2015年1月より現職。
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後編 お客様と営業担当、上司と部下。どちらも同じ「◯と◯」がわかってない人が多い
前職では数々の受賞歴とともに、トップセールスとして走り続けてきた山本隆志氏。常に業績を上げ続けるその原動力は何か。そして抜群のスピード感の中で顧客やチームメイトとの関係をつくり上げる秘密は?
マネージャーとしてどう動くのか
浅井
山本さんはもともとプレイヤーだったわけですが、マネージャーへの転身に違和感はありませんでしたか?
山本
あまりなかったですね。仕事に対するスタンスや考え方も変わっていません。ただ、部下たちに自分と同じ基準を当てはめてはいけない、とは思いました。それでうまくいかないマネージャーはいっぱいいると思いますよ。とはいえ、私は「人は何かに貢献したい、頑張りたい生き物」だと思っています。メンバーによっては頑張り方がわからずもがいていたりします。そこをサポートできればといつも考えています。
浅井
マネージャーとして、チームをまとめる方策というのは、あるのでしょうか?
山本
まずはメンバーの一人ひとりをきちんと理解することです。仕事だけではなく「どう生きたいか」という人生観も含めてメンバーを理解する。次は、成果を出そうとするチームの方向性と、本人が個人として目指す方向性をリンクさせることです。「だったら、今の仕事のこういう部分が、将来の目標につながるじゃないか」とヒントを出すと「あ、そうか」と腹落ちしてくれます。チームの目標と自分自身の目標が同じ方向を向いていることがわかれば、目の前の仕事が「自分の目標を実現するためのワンステップ」になるんです。
浅井
仕事以外の話を引き出すのは、難しそうに思いますが。
山本
職場で上司と仕事以外の話をすることに抵抗がある人は多いみたいです。「こんな話していいのかな?」という。でも上司と部下という一点での関係から「人と人」という関係にシフトすると、比較的みんなオープンになってくれる。あとは「どうすれば意欲が湧くのか」という本人の方向と、チームが目指す方向をすり合わせることです。チームで動いているのですから、目標はみんなで頑張って達成したい。そうした思いを醸成できれば、とても良いチームになると思いますね。
個人とチームのベクトルを合わせる
浅井
個々のクライアントや商談に照準を当てたミーティングというのは、行わないのでしょうか。
山本
人が頑張るには理由が必要です。たとえばMVPをとりたいと思っている人がいれば、それが目標になり頑張る理由になる。MVPをとるためにこの商談どうするか?という話ができる。本人の目標と組織としての目標が合致しているというのは、こういうことです。でもそうした目標がない、あるいはその人の目標を理解しないまま、個々の商談について話をしたところで、そこに「頑張ろう」という意識は生まれてこないし、個人と組織の相乗的なパワーも生まれてこないと思います。
浅井
そうしたテクニックというか方法論は、どこで培われたものなんでしょう?
山本
今までの経験からでしょうか。誰かに教わったというより、上司や先輩のやり方、スタイルの中から「いいな」というところを少しずつ勉強させて頂いたのだと思います。また、自分が経験したイヤなことや後悔したことは経験させたくない。その結果として形になってきたものだと思います。私はメンバーに対しては変な決めつけをしないで、オープンに接していくことを大事にしています。その中で個人と組織のベクトルをすり合わせ、同じ目標に向かっていくんです。
浅井
ベクトルを合わせて目標と期限を決めて、そこにこだわる。原理原則は変わらないんですね。
山本
メンバーとグループの方向性が合致していると、何かしら知恵が出てきますしね。知恵の出し方がわからない、という人もいますが、自分の目標がセットされていて、それがチームの目標と合致していれば、ちょっとしたアドバイスをきっかけに動き出し、結果を出せたりします。そうした状態になっていると、指導もしやすいですね。チームとしてロスを回避するという視点で考えても、プラスになるやり方だと思います。
一点だけにとどまらない関係が成果を生む
浅井
仕事という一点だけでなく、人と人のつながりを築こうとしているように見えます。
山本
その通りです。仕事一点で捉えないようにしています。たとえばAさんというお客様がいたら、Aさんは何をしたいんだろうとか、Aさんは何に興味があるかとか、最近の悩みは何だろうとか、そういうことを考えるんです。一人のお客様にもいろいろな顔がある。結婚していたら夫であり父であるかもしれない。そうした目でお客様を見つめたとき、自分が何をすれば相手にとって最善の提案になるだろうか?と考えるんです。
浅井
それが結果として、成果につながっていく。
山本
セールスにとっては、お客様の利益に貢献することが自分の利益にもなる。だから常にお客様のことを考えていればいい。トップセールスの人たちはみな、同じことを言うと思うのですが、そこをわかっていない営業マンは意外なほど多いのではないでしょうか。目標を自分で決める、日付を入れる、振り返る、お客様のことを考える。これを地道に実践していけばいいのに。私からするともったいないなと思ってしまいます。
内側からの力を引き出す方法は?
浅井
「内発的な動機」というお話がありましたが、それを引き出すプロセスはあるのですか?
山本
リクルート時代には「自分史を書いてもらう」ということはやってました。記憶にある幼少期から今までのできごとを書いてもらうんです。そうすると、点でしか見えていなかったその人が、面で見えるようになる。幼少期の経験とか成功体験とかを含めて、その人の根っこを理解できるようになる。
浅井
相互理解の第一歩ですね。
山本
やはりメンバーそれぞれに、良くも悪くも個性があって、合わないメンバーも時にはいます。でも人間、見た目と根っこが同じとは限らない。心の深いところでは、誰だって頑張りたいし、チームに貢献もしたい。それをうまく表現できないだけだったりするんです。人それぞれに価値観は違うしクセもある。それを全員が理解すれば、「だからあの人はあの場面であんな発言をしたんだ。」と理解できるようになり、場の信頼が高まっていくんです。
浅井
そうした関係づくりは手間も時間もかかりますが、御社のスピード感にどのように合わせていくのでしょうか。
山本
それは私の当面の課題ですね。リクルートでは定期的に丸一日時間をとって、相互理解する場を設けていたんですが、ビズリーチでは事業成長に伴い、新しいメンバーが次々と入ってくるので。今は時間をうまく使いながら、何か良い方法はないか、考えているところではあります。
どうやって人を活かすのか
浅井
リクルートは新規採用がほとんどだったと思いますが、こちらでは…。
山本
ビズリーチではほとんどのメンバーが中途採用です。ただ私もここで学んだことなんですが、転職してすぐというのは、誰でも不安なんです。ですから最初の2ヵ月くらいは、自身に少々負荷がかかっても、週2で30分くらい時間をとって、その不安を解消する機会をつくっています。そこで本人の気持ちが立ち上がれば、その後は必要に応じて面談、フォローしていくようにしています。
浅井
それにしても、束ねている人数も多いですよね。
山本
今、私の部署に所属しているのは30人ほどですね。これくらいになると、全員に目が行き届かず、手が回らないところも出てきますね。そうすると特に若いメンバーは不安になってしまうし、とはいえ私も全員からしっかり話を聞ける時間もない。そうなると、メンバーの中核になるリーダーとの信頼感を高めることに比重を移すしかなくなってきます。チームの要になるリーダーと週1で1時間くらい時間をとって、色々な話をする。仕事の話だけではなくて、プライベートな話も含めてですね。彼らと信頼関係がしっかりつくれれば、私と同じ目線でメンバーと接してくれるようになります。
浅井
階層構造をとりながらも、やはり「時間をかけて話す」というスタンスは変わらないんですね。
山本
それが、理解と信頼を生むいちばんの方法なんだと思います。マネージャーの仕事は人を活かすことですから、どうすれば彼らがやる気を出してくれるか、考えるのはそこなんです。お客様にしろメンバーにしろ、結局は「人と人とのお付き合い」ですから、良い関係を築くためには、お互いに対する信頼感が第一。そのためには仕事一点のつながりではなくて、いろいろな話ができる環境は何より大事だと思っています。
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